人事制度なき参画

企業の人事制度は、個人の立場からすると、受け入れるかどうかという受動的な意味しかもたない。しかし、企業の立場からすると、受動的ではもの足りないわけで、各個人に、積極的に、人事制度の意味を認めてもらわないと困る。そのため、結局のところ、人事制度の要諦は、制度の設計よりも、制度の運用を通じた制度の定着にあることになる。

企業における人材管理とは、人事制度の管理なのではなくて、人事制度という客観的準則のもとでの人材の管理なのだから、現場における個人ごとへの具体的適用こそが重要なのである。ところが、具体的適用といってしまうと、ただちに、人事制度の客観性との間に、どのようにして折り合いをつけるのかという問題を生じる。

個別具体的な適用が、個別具体的であるにもかかわらず、企業内で一貫したものであるためには、人事制度の裏にある理念、即ち、企業の経営理念が企業内に定着していなければならない。定着というのは、企業の風土、伝統、文化、あるは雰囲気といったような目に見えないながらも客観性のあるもの、つまり、ある種の原理として、理念が化体していなければならないということである。

ところで、文化や風土などというものは、企業のなかの各個人の働きによって形成され、維持され、進化発展させられていくものだから、それは、個人にとって、外部のものであると同時に、個人を内部の要素として含むものでもある。企業としては、企業理念が企業内の人材にとって外部のものであっては困るわけで、その理念の形成と維持発展について、各個人の主体的関与による参画を求めたいわけだ。

人事制度は、参画のルールである。企業の文化や風土は、参画の原理である。ルールからは、企業の文化や風土は生まれない。しかも、ルールは、原理の客観規範化であるが、硬直化し、自己目的化して、原理を形骸化させ、文化や風土を荒廃させる可能性をもつ。

人事制度なき参画、見えない原理による人材管理、これぞ、企業の理想である。

 

森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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