トランプとテイラーソンと資源の呪いと

何とも興味深い見出しのFT記事だ。原文はそのまま “Trump, Tillerson and resource curse” となっていて、サブタイトルが “Companies no longer need to declare payments to autocratic regime” となっている2月22日の記事である。

トランプとテイラーソンが「資源の呪い」に何かしようとしているのだろうか?

「資源の呪い」とは、天然資源を豊富に持つ国ほど経済発展が遅れ、貧困の深刻化に悩まされる経済現象のことで、たとえばナイジェリアを思い浮かべれば理解しやすいだろう。

ナイジェリアは1971年にOPECに加盟した大産油国だが、依然として必要な石油製品のほとんどを輸入に依存している。他の経済分野はもちろん、石油産業ですらきちんと成り立っていないのだ。

原因はどこにあるのかといえば、天然資源からの国家収入が一部権力者の懐に入るだけで、国家としての経済成長に使われていないからだ。そう、汚職と腐敗の蔓延だ。

これを何とかしようと、多国間協力の動きがあり、すでにノルウエーやカナダあるいはEUでは、採取企業による約10万ドル以上の資源国政府への支払いはすべて公表することが法律で義務付けられている。

2002年9月南アのヨハネスブルグで開催された「持続可能な開発に関する世界首脳会議」で、当時のブレア英国首相が提唱したことからこの動きは始まった。EITI(Extractive Industries Transparency Initiative=採取産業透明性イニシアチブ)とは、外務省のHP(平成29年2月10日付)にはよれば、石油・ガス・鉱物資源等の採取産業(Extractive Industries)から資源産出国政府への資金の流れの透明性(Transparency)を高めることにより、腐敗や紛争を予防し、成長と貧困削減に繋がる責任ある資源開発を促進する多国間協力の枠組み、となっている。アフリカなどの資源国、欧米をはじめとするこの動きを支援する多くの国、あるいは国際機関や民間企業などが参加しているこのEITIには、支援国として日本も参加しているし、国際石油開発帝石(Inpex)や三菱マテリアルや住友金属なども参加している。もちろん米国も、エクソンモービルやシェブロンも参加している。

おそらく気候変動問題同様、歩みは遅くとも前進あるのみで、後退することはないと思われる国際的な取り組みなのである。

日本では「金融規制改革法」と呼ばれている2010年成立のドッド・フランク法だが、記事の焦点はこの法律の1504条にある。この1504条こそが、EITIに基づく「採取企業の資源国への資金支払い内容の開示」を定めているものなのだ。FT記事で「非公式に『払ったものを公表せよ(publish what you pay)』と知られている」と紹介されている規制だ。

FT記事の要点を次のとおり紹介しておこう。

・同法案は2010年にオバマ大統領が署名したが、API(米国石油協会)のロビー活動により足踏みさせられており、依然として法制化されていない。

・テイラーソン国務長官は、エクソンモービルの最高経営責任者だった時にはこの法案に猛然と反対していた。

・トランプが大統領令に署名しこの法案は無効となったが、この「バレンタインディの大虐殺」が人目を引くことはなかった。

・反対する人々は「他国と比べて不公平だ」というが、いまやシェル、BP、トタール、ロスネフチ、ガスプロムなども含まれており、本法案を推進したMr.Lugasが書いているように、「欧州とカナダは同じ公表システムを持っているので、今や競争は公平だ(playing field is now flat)」。

・(「資源の呪い」の例として赤道ギニアを挙げ)石油が発見されてから、赤道ギニアの国民一人あたりの収入は年4万ドルを越え、サブサハラ・アフリカで最高となり、計算上は英国と同じくらい豊かになったが、国民の4分の3は依然として一日2ドル以下の貧困に喘いでおり、平均余命は58歳と、戦争で荒廃している南スーダンとほぼ同水準だ。

・1979年に残忍な叔父から政権を奪取し、今日まで独裁支配している現オビアン政権に支払われた金がどこに流れるのか、誰も知ることはできないが、推測はできる。2004年に米国当局に秘密資金を暴露されたオビアン大統領の息子の副大統領は、2014年に7,000万ドル以上の不正資金問題を司法取引し、マリブの豪邸と超高級車数台を差し出した。また彼は、パリの1億ドル以上といわれる豪邸入手など不正な手段での蓄財の疑いで被告不在のまま裁判にかけられている。

・米国の前アフリカ通商局長だったRosa Whitakerは、国民は国家が国の財産からいくら受け取っているかを知る権利がある、という。「石油会社がなぜ反対するのか、私には分からない」

・トランプが税申告内容を隠しているように、彼らは何かを隠しているのだと見なすことになる。テイラーソンが国務長官に任命される前に、『石油の帝国』でエクソンと赤道ギニアの関係を書いたSteve Coleは、テイラーソンが任命されることは「アメリカの権力が資源を確保するために粗野な新植民地主義的行動をするという」多くの人々が見なしていたことが確認されることになるとコメントしていた。

・もしエクソンモービルがモザンビークや、幸いまだだが、ロシアで大きなプロジェクトを手に入れると、人々は、何を支払ったのかと、エクソンのためではなく国家のために働くと誓ったテイラーソンに聞くことになろう。エコノミストで “Building the New American Economy” の著者であるMr. Jeffery Sacksは、トランプ大統領はロビィストを排除しているが、Gary Cohnを国家経済評議会の長に任命したことを「財政をゴールドマン・サックスに任せた」と言った。「そして国家(State)をエクソンモービルに手渡している」と。


編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2017年2月23日のブログより転載させていただきました(アイキャッチ画像は「Daily Express」より引用)。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。