(新連載)農家の僕が「元ヤン」で売り出したわけ

田中 健二

初めまして。田中健二と申します。千葉県富里市で、株式会社ベジフルファームという農業法人を経営しています。富里は成田空港の西4キロほどのところにある、のどかな地域ですが、土壌が恵まれておいしい野菜も作りやすく、農業が盛んです。

元“悪ガキ”が農業で年商3億

自分でいうのもなんですが、10代の頃は本当に悪ガキでした。たった二人のチームに「鉈出殺殺(ナタデココ)」と名付けて(一応、総長やってました)、改造車を乗り回していました。ぶっちゃけ、何度か警察のお世話になったこともあります。まさに「ヤンキー」上がりです。

高校を卒業してからは、父が経営する野菜の流通会社で働き、青果卸の仕事をしていましたが、32歳のときに「農業をやってみよう」と思い立ち、今年で創業6年目です(なぜ農業を始めたかは詳しいことは今後書いていきます)。僕も含め、未経験者ばかりでゼロからのスタートでしたが、おかげさまで当社の年間の売り上げは野菜だけで約2億円、ほかも含め3億円になり、ベトナムなど海外にも進出し始めています。

「元ヤンの社長が農業をやっている」というのが面白がられたのか、最近では、テレビ、ラジオ、雑誌などにもよく出させていただくようになり、このほど、初めての本となる『組織は人 元ヤン農業法人の鬼アツ経営論』(洋泉社)も出版しました。

ベジフルファーム社サイトより(編集部)

数々の出会いから始まった農業での成果

今ある程度うまくいってるのは、紛れもなく農家の仲間や会社のスタッフ、その他大勢の人との出会いがあったからだと思います。そもそも出会いがなければ農業とも出会わなかったでしょう。農業を始めてからと言うものその良い仲間がびっくりするくらい増えました。

まずは一緒に畑に出て泥だらけになりながら働いてくれている従業員。多少の農業ブームで続けられるほど楽な仕事ではありません。それでいて僕は欲張りなので、契約先を増やす。農地を増やす。色々な面で我慢がきかずかなりのハイペースで突っ走っているので、付いて来てくれているみんな大変です。

2012年に会社を作った頃は僕を入れて3人でしたが、現在は、取締役・社員とパートさん、外国人の研修生を合わせて総勢で35人。僕は高卒なのに、東大卒でJALの元役員のおじさんとか、「うちでいいんですか?」と質問したくなるような方々がどこからともなく集まってくれました。

「元ヤン」で売り出したガチな理由

たくさんのメディアから取材をいただいているのも、すばらしい仲間が集まって短期間で成長できたのも、きっかけの一つは、「元ヤンキー」で思い切ってブランディングしたことだと想います。

といっても、僕自身は当初から「元ヤン」で売り出すことに積極的だったわけではありません。農業法人で人を集めようと、広告を出すにも、普通なら「太陽と青空の下で笑顔になれる仕事です」というコピーがあって、野菜をもってニッコリしている写真が載っていたりします。でも、普通の広告は絶対に嫌でした。

なぜ、嫌だったのか。それでは人は来ないと思ったからです。

詳しいことは本に書いたので、ぜひお読みいただきたいのですが、うちのグループの運送会社でドライバーを募集しようと、150万円をかけてフツーの求人広告を出したのですが、応募はゼロ。どんな人にきてほしいのか漠然としていたからダメだったのだと考え直しました。

そこで、「スケボー好きの若い子」にターゲットを決めて、「うちの会社ならスケボーやり放題だよ」とコピーを打ち、倉庫の隅に自作のスケボーランプ(湾曲した半円状の斜面)を設置しました。これたった2万5000円。すると、今度はすぐに応募があったのです。この時から、ターゲットを決めることが大事だと強く感じるようになりました。

そこで、自分の会社では「元ヤン募集」で人を募集することにしました。求人サイトに、その内容を載せるのは断られたのですが(笑)、そこから会社のホームページに飛ぶようにして、ウェブマーケティングの仕事をしている長山衛(今は弊社の取締役)が、すごく目立つデザインにしてくれました。そして、こんな過激な条件を並べました。

「タトゥーOK」
「根性焼き跡OK」
「パンチパーマ優遇」

ふざけていると取られかねないかもしれませんが、僕は楽しかったし、こんな会社もあってもいいと思ったし、戦略的にもありだと思ってやってみました。すぐに40件くらい問い合わせがあり、その後、たくさんのすばらしい人たちと出会うきっかけになりました。

ブログ開始にあたり

うちの会社を最初に取り上げていただいた大手メディアは、東洋経済オンラインだったのですが、そのとき、取材に来てくれたライターさんも、そのホームページを見たのがきっかけだったそうです。

実はそのライターさんが、いまはアゴラで編集長をされている新田さんです。今回、初めて本を出すにあたって新田さんから連絡があり、アゴラで時折、ブログを書かせていただくことになりました。

皆さんから「ヤンキーと農業の相性はいいの?」とよく尋ねられるので、ブログでは、そうした疑問にお答えします。いまの農業では、野菜を作るだけでなく、売っていくことが重要になっていることや、超個性的なメンバーをどうまとめていくか、「オラオラ系」の先輩から学んだビジネスに活かせる話などについても書いていきたいと思います。よろしくお願いします。

田中健二(たなか・けんじ)

農業生産法人ベジフルファーム代表取締役社長。仲卸・物流・管理・営業を経験後、千葉県富里市にベジフルファームを設立。千葉県富里市に加え、千葉県流山市にて営農開始、「株式会社ベジフルファームジャパン ベトナム」を現地生産者と合弁会社として設立、農業新規参入者向けのコンサルティングサービスの開始など、事業拡大中。