トランプ支持派が確信を強め、リベラル派に再考を迫る事件

池内 恵


これはトランプ支持派に確信を強めさせ、リベラル派には自らの認識と議論の枠組みの再考を迫る事件。ユダヤ教墓地の破壊や、爆破脅迫などが相次いでいたことに対して、主要なメディアと民主党の政治家は、トランプ当選の影響だ、とトランプに責任を負わせ、対策が不十分と責めていた。白人の人種主義者、白人優越主義者による犯行と前提にして議論されてきた。

しかし複数の脅迫で逮捕された容疑者は黒人で、白人の元カノを中傷するためにユダヤ教施設への爆破予告を繰り返していた。

おまけに、SNSへの投稿で、セネガルへの渡航に絡めて、イスラーム教への傾倒をうそぶいていたとの指摘もあり、イスラーム教徒=被害者とする議論の単純さも明らかにした。

容疑者は先鋭的なリベラルメディアの記者を経験していた。グレン・グリーンウォルドが創設したThe Interceptというウェブメディアだが、容疑者は記事捏造で解雇されていた。グリーンウォルドはスノーデンの告発を独占スクープしたことで有名。

「リベラル派の気にいる話を捏造」するというのがこの容疑者の一貫したパターンであり、それなりに効果を持ってしまって、やがてバレるということの繰り返しの人生のようだ。

もちろん全ての破壊行為や脅迫がこの容疑者によるものではないだろう。しかし、リベラルな規範が、実際の社会の中では「弱者」の立場に依存して人を攻撃するタイプの人と行動パターンを生み出していることにリベラル派が無自覚であるか、政治的配慮から問題視を避けてきたことは、トランプ支持層を生み出す原因になっていると思う。

問題構図を直視する議論が出てこないと、トランプ支持層は一層固まり、その理由はメディアで十分に伝えられず、一層分裂が深まるのではないか。

少なくとも西欧では、現在新たに高まる反ユダヤ主義は主に移民系ムスリムの間のものであるということは、ポリコレをもってしても隠しきれない事実として認知されつつある。ムスリムが圧倒的に少ない米国でも、一部に同じ傾向が出てきたのか、注視するべき事件である。


編集部より:この記事は、池内恵氏のFacebook投稿 2017年3月4日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像はWashington Postより引用)。転載を快諾された池内氏に御礼申し上げます。