「科学」を「敵」にした小池都知事の誤り

都庁サイトより(編集部)

豊洲の移転問題について、殆ど興味がなかったのだが、マスコミがこぞって石原慎太郎批判を展開しているので、興味をもって石原慎太郎の記者会見の全文を読んだ。

結論から言えば、石原慎太郎を悪魔化しようとしても、それは無理筋だということだ。

小池都知事は政治家として、なかなか戦略的な人物で、つねに大衆を人気を得ようとして戦略的に振る舞っている。彼女には自身の基盤となる政党の支持がないので、大衆の支持だけが頼りになるのだろう。

彼女の一貫した戦略は、大きな敵を作り出し、自分が巨悪、敵と戦う正義の政治家だと演出する戦略だ。古代より「敵」を作って内部を結束させ、支持を得る戦略が存在した。

マキャヴェリは『君主論』の中で、次のように指摘している。

「賢明な君主は、機会があれば奸策を弄してでも、わざと敵対関係をこしらえ、これを克服することで勢力の拡大をはかる」

古代の君主たちが用いた戦略は、民主主義社会の中で、さらに力を発揮することになった。最も究極的なのはヒトラーで、彼は「ユダヤ人」の脅威を煽り立てて国民を恐怖させ、支配者となった。

小池都知事は、当初、内田茂氏を「都議会のドン」という「敵」に仕立て上げ、千代田区長選挙で代理戦争を演出し、血祭りにあげた。ここまではうまくいった。

勝利を喜ぶと同時に、彼女は勝利に焦ったはずだ。「敵」が消え去れば、巨悪と戦う政治家として演出する戦略が不可能になるからだ。
そこで「敵」となる次なる獲物が石原慎太郎だったのだろう。

だが、石原慎太郎を「敵」にしようとする方法があまりに露骨で、論理が粗雑に過ぎた。記者会見の全文を読んでみれば、石原慎太郎を「悪魔化」することが非論理の極みであることは明らかだろう。

豊洲の移転に関して石原慎太郎は言う。

「行政の組織、都庁全体が専門家含め検討し、しかも議会が了としたものを私は裁可せざるを得なかった」

恐らく、今回の問題に対する最大の答えがここにある。組織で動いてきたこの問題を石原慎太郎個人の罪として追及するのは、論理的に考えれば、無理な話なのだ。

石原の説明を「恥さらしの説明」と決めつけ、「日本男児の愛国者を標榜」する石原は責任を取らないのかという挑発的な質問に対しても冷静に答えている。

「あの土地をあのコストで購入したのは、私が決めたわけではありませんよ。そのための審議会が専門家を含めて決めたことですから。私は恥とは思ってませんね。」

私もこんなことを恥だとは思わない。審議会が専門家を含めて決めたことを首長がひとつずつ拒絶していたら、行政機能は麻痺してしまうだろう。

私が最も重要だと感じたのは次の指摘だ。

「風評に負けて豊洲がこのまま放置されるっていうことは、結局科学が風評に負けたということになる。これはまさに国辱だと。日本が世界で恥をかくことになるという忠告をいただきました。」

これはまさにその通りだ。使いもしない地下水の問題を喚きたてる理屈はまさに非科学的だし、単に「風評」被害をでっち上げているだけの話だ。科学が風評に負けてはならない。

以前、教えていた福島県出身の学生が、福島ナンバーの車で旅をすると、タイヤをパンクさせられたりすることがあり、本当に嫌な思いをすると話してくれたことがある。「福島から来るな」という意味が込められているのだという。当初、考えすぎではないのかと思っていたのだが、ニュースでも福島県出身の子供が公園で虐められた話等々が報道されているのをみると、本当に「福島県から来るな」「福島県出身者のそばに行くと『被爆』する」などという全く非科学的ないじめが存在していると思わざるを得ない。無知なる風評が科学を無視していじめとなっているのだ。

科学が風評に負けてはならない。

小池都知事の誤りは石原慎太郎を「敵」としようとしたあまり、「科学」を敵にしてしまった点だ。


編集部より:この記事は政治学者・岩田温氏のブログ「岩田温の備忘録」2017年3月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は岩田温の備忘録をご覧ください。

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