FRBのイエレン議長などから利上げに向けた前向きの姿勢が示され、3月14日、15日に開催されるFOMCで追加利上げが決定される可能性が強まっている。10日に発表された2月の米雇用統計でも非農業雇用者数が前月比23.5万増と予想を上回ったことも後押し材料になろう。2015年と2016年のFRBによる利上げはそれぞれ12月のFOMCでの1回に止まった。しかし、もし今年は3月に利上げが決定されるとなれば、年複数回の利上げが視野に入る。
3月3日の講演でイエレン議長は、「われわれは支援策の一部の縮小を過度に長期間待てば、将来のある時点で急速な利上げが必要となり、金融市場を混乱させ、米経済をリセッションに陥らせる恐れがある公算を認識している」と語った。経済見通しに修正を加える予想外のイベントがない場合、「金融緩和の度合い」を弱めるスピードは2015年や2016年のような緩慢なものにはならないであろうともコメントしている。
この発言からも年複数回の利上げが意識されていることが伺える。それでは2015年と2016年に1回しかできなかったものが、仮に今年は複数回できるとしたら何が変わったのであろうか。
雇用を中心に米経済が予想以上のペースで回復し、物価もFRBの目標に近くなっていることが挙げられよう。正常化を進め、経済環境に適した政策金利の水準まで引き上げたいとの意向があろう。意外に米長期金利の上昇が慎重となっていることも、利上げを進めやすくなっている面があるかもしれない。
トランプ大統領の登場も影響しているとみられる。しかし、トランプ大統領の経済政策はまだ具体性に乏しいため、その予防策を打つにしてはやや気が早い。ただし、FRB理事や2018年のイエレン議長やフィッシャー副議長の任期なども影響している可能性はある。トランプ政権の意向も不透明なだけに、早めに手を打とうとしていることも考えられる。
そして、3月のオランダ総選挙、4月と5月のフランス大統領選挙を前に利上げを行いたいとの意向があった可能性もある。ポピュリズム政党の躍進を受けて、ユーロ崩壊の可能性などが意識され、市場が動揺するようことになると、再び緩和政策が必要となる可能性がある。そのための糊代を作っておきたいとの意向が働いている可能性もある。ただこれについても、ある意味予防的な動きともみられるため、リスク要因としてまったく影響はないとは言えないが、それほど利上げを急ぐ理由にはならないように思われる。
いずれにしてもFRBの今後の利上げに注意すべきことは、年複数回の利上げを意識しているのか、意識しているとして2015年や2016年のように慎重とならざるを得ない状況に陥ることはないのか。利上げによる長期金利の上昇はどの程度まで容認しているのか、バランスシートの縮小はどのタイミングで行おうとしているのか、あたりとなるとみられる。
編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2017年3月12日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。