読者の皆さんは2月23日付弊ブログ「トランプとティラーソンと資源の呪いと」をご記憶だろうか。トランプ大統領が石油業界の要望を入れ、金融規制改革法第1504条を完全に無効にしたことにからめて報じたFT記事を紹介したものだ。サブタイトルが「資源会社はもはや専制国家政府への支払いを公表する必要がなくなる」だったと言えば、ぼんやりとでも思い出してもらえるだろうか。トランプ大統領が行ったことは、「資源の呪い」の呪縛から解き放つことを目的として、英ブレア元首相のイニシアチブで始まったEITI(採取産業透明性イニシアチブ)の世界的流れに水をさす動きなのだ。
ちなみにコバルトとは、2005年創設のCobalt International Energyのことで、米国メキシコ湾と西アフリカ等で石油開発に従事している会社である。
今回のニュースは、通常の決算報告を管理当局であるSEC(証券取引委員会)に行ったことに関連して報じられているものである。
日本時間3月16日12:00ごろに掲載されたFT記事 “US regulator probes Angolan deal involving BP and Cobalt” には “SEC requests information regarding $350m payment to fund a research center” というサブタイトルが付いている。
さて恒例により、筆者の興味関心にしたがい記事の要点を紹介しておこう。
・NYに上場しているコバルトのSEC報告に基づき、まだ実現していない研究センタープロジェクト用として3億5,000万ドルを支払ったことが腐敗防止法に抵触していないかどうかSECが「非公式の調査を始めた」。コバルトはBPと共に、2011年12月にアンゴラ沖合鉱区の権益を入手した際、アンゴラ国営石油ソナンゴルが建設を予定している研究センタープロジェクト用として4年間にわたり3億5,000万ドル支払うことに合意していた。
・BPは今週FTに対し、US当局からの問い合わせはない、と語った。
・腐敗防止運動を行っているGlobal Witnessなどは、支払いが始まって5年経っても遅々として進まない当該プロジェクトに、実際の建築コストを含め、疑念を呈している。
・コバルトは、SECから月曜日に連絡があり、関連情報の提供を求められた、として「アンゴラにおける我々の事業活動は、外国公務員腐敗防止法などすべての法令に合致しており、SECの調査には協力する」と述べている。
・BPは「ソナンゴルから、当該プロジェクトはいまだに計画段階にある、と聞いている」としている。ソナンゴルからは返事がなかった。SECはコメントを控えた。
・該当の鉱区Block-20は、BPがオペレーターで大当たりしているGreater Plutonio鉱区の南に位置しており、コバルトが40%(オペレーター)、BPが30%、残りの30%をソナンゴルが保有している。研究センタープロジェクトへの支払いは、石油開発業界では普遍的な契約調印ボーナスの一貫として行われた。すなわち、ランサム750万ドル、社会関連用2億ドル、研究センター用3億5,000万ドルである。
・(別のプロジェクトで)当該研究センタープロジェクト用に500万ドルを支払ったノルウエーのスタットオイルは、2016年にノルウエー警察と協議(discuss)したことがある。同社によれば、当該支払いは正当なもので、警察当局も犯罪捜査はしないとした。今週FTの問い合わせにスタットオイルは、SECからは問い合わせがないが、研究センターの進捗状況については「ソナンゴルに引き続き問い合わせる」が、首都ルアンダの南Sumbeの町に建設すると聞いている、としている。
・コバルトは、2014年に当該鉱区で油を発見しており、その後何本か探掘井を掘っているが、結果はバラバラである。2011年に取得した鉱区権は、今年初めに期限を迎えており、コバルトは延長申請をしているが、当局が検討中だとのことだ。
・当局のアンゴラに関するコバルトへの調査はこれが初めてではない。別の鉱区において、コバルトの地元パートナーの影のオーナーが複数の政府高官だったことを巡り、過去5年間調査が行われたが今年2月、当局は調査を取り下げた。
・またコバルトは、2015年に保有権益をソナンゴルに17億5,000万ドルで売却することで一度合意したが、結局この取引は失敗した。
編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2017年3月17日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。