政治家が「弁当」を持参する時

長谷川 良

韓国人は食事を大切にする。「ご飯を食べたか」があいさつ言葉の国民性だ。だから、というのではないが、韓国のメディアには食事に関連する記事が結構多い。

最近では、ソウル中央地検に出頭した朴槿恵前大統領の昼食のことが書いてあった。朴前大統領は21日、ソウルの中央地検に出頭し、聴取を受けた。前大統領の友人の崔順実被告(60)による国政介入事件に絡む収賄などの容疑に対する事情聴取だ。同日午前の聴取が終わった後、朴前大統領は昼食に持参した弁当を食べたという。弁当の中身はキムパプ(海苔巻き)だった。

聯合ニュースは検察の聴取を受けた過去の人物の食事メニューも紹介していた。それによると、「崔順実被告が昨年10月に検察の聴取を受けた際には、夕食に近くの飲食店からコムタン(牛煮込みスープ)の出前を取って食べ、故盧武鉉元大統領は2009年4月に検察の聴取を受けた際に同様にコムタンを食べた。1995年11月に検察の調べを受けた盧泰愚元大統領は、日本料理店に注文して持ち込んだ弁当を食べた」という。

政治家の弁当持参は決して通常ではない。外から注文するほか、レストランやホテルで関係者と会食する機会が俄然多い。だから、政治家が弁当を持参するということは、ある意味で特殊なケースだ。
朴前大統領にしても検察側の取締りに対し納得いく返答が要求されるから、頭の中はそのことで一杯だろう。ゆっくりと食事を楽しむといった状況ではない。しかし、食事抜きはよくない。そこで自宅や事務所で作った弁当を持参したというわけだろう。

弁当といえば、小泉純一郎首相(当時)が2002年9月、日本人拉致問題の解決のために訪朝した際、弁当を持参したというニュースを思い出す。日本国民を拉致した国が用意した食事を口にはできない、という小泉首相の考えがあったはずだ。そこで弁当(幕の内弁当)の持参となったのだろう。

朴前大統領も小泉元首相も課題は異なるが、戦場に出陣するといった緊張感が漂っていたはずだ。それが弁当の持参となったわけだ。当方の解釈だが、身内が作った弁当は心を和らげるのに最適のメニューだ。

少々話は飛ぶが、ティラーソン米国務長官が今月17日、訪韓したが、歓迎の夕食会がなかったことで、米韓両国外交筋で異なった解釈が報じられ話題となったばかりだ。米国側は「韓国側から招待がなかった」と説明する一方、韓国側は「国務長官の日程などから判断して夕食会の開催は難しいと考えた」というのだ。

安倍晋三首相が2015年11月2日、訪韓し、朴大統領と首脳会談した後、韓国側から昼食会の声はかからず、安倍首相一行はソウルの焼き肉店で「韓国牛の霜降りロースのセットと味付けカルビ」を食べた(「安倍(首相)さんのソウルの『昼食』」2015年11月4日参考)。
韓国では食事の意味は大きい。本来、ゲストを食事でもてなすことが上手い国のはずだ。それだけに政治や外交でも食事に込められた意味があるとみなければならない。それとも、韓国の政治家たちはゲストとゆっくりと食事を楽しむ余裕を失ってきたのだろうか。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年3月24日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。