ドワンゴ川上会長「経営として非合理的でも家庭を持ってもらう」

スゴいい保育

前回の「ドワンゴ川上会長が語る社内ベビーブームを起こしたどわんご保育園とは」に引き続き、株式会社ドワンゴの川上会長とフローレンス代表理事駒崎の対談をお送りします!

社員に生きる目的を持ってもらうのが大事

-駒崎
経営者という立場で、会社の働き方の文脈で保育などについて思うところはありますか?

-川上会長
普通に考えると企業というのは、子育て支援などの福利厚生は「宣伝・イメ-ジアップ」のためにやっていることが多いと思うんですよね。メセナ(※)とかいう言葉もありますが、これも僕は凄い資本主義的なロジックを背後に感じていて、いいことをすると得をする、いいことをしないと損をするという風なロジックに感じるんですよね。

(※メセナ:即効的な販売促進・広告宣伝効果を求めるのではなく、社会貢献の一環として企業が行う芸術文化支援活動などを指す。)

寓話「花咲かじいさん」の「正直じいさん」みたいな論法で、欲張りな人は社会的な制裁を受けて、「正直じいさん」のように正直でいると金銭的に得をするという寓話です。これはお金が欲しい人は正直でいましょうという教えじゃないですか(笑)

-駒崎
たしかにそうですね(笑)

-川上会長
だからメセナというのも結局は資本主義的な価値観からくる論理的な結論にすぎない。僕は経営者というものは、外部から押しつけられなくても、自分自身の中に実現したい理想を持っているものだと思います。

そして理想を実現するためには、資本主義的な価値観と相反することもある。でも、経営者とは本質的には資本主義的な価値観を最優先して従うことが求められているものです。なので、経済合理性のない社会的に正しいことをしようとするためにはメセナとかいう大義名分が必要になる。

しかし、メセナ自体はやはり資本主義的な理屈の枠内にある考え方です。そこを真面目に追求すると、本当にここまでやる必要があるのか、やると得をするのかと考え始めて、だんだんとやれる範囲が小さくなってしまいます。

だから、そこでの理屈は屁理屈でいいと割り切ることが大事だと思うんですよね。何かいいことをしようとする時には、むりやり理屈を付けて正当化して、そしてその正当化した理屈は間違っているということが分かりつつも、やるという強い姿勢が必要なんですよ(笑)

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-駒崎
なるほど、わかりません(笑)だいぶ難しかったのでもう少し噛み砕いて説明してもらっていいですか(笑)

-川上会長
ですよね(笑)

例えば保育園を作るっていうことを例に考えましょう。ドワンゴはIT企業なのでエンジニア主体の若い会社です。では、エンジニアにとって結婚をして、家庭を持って、子どもを育てるということを、資本主義的な考えかつ、企業としての合理的な損得だけで考えるとどうなるかというと、エンジニアとしてのパフォーマンスは確実に下がるんですよね。

独身で、自由にバリバリ朝から晩まで好きな時に楽しく働いてくれていた人が、家庭を持つと一気にパフォーマンスが下がる(笑)

-駒崎
なるほど(笑)今日は家に帰らないといけないから……みたいになるわけですよね。

-川上会長
そうです。では、この現象を営利企業として見た場合に、結婚の推奨、出産育児の支援をするということは得をするのだろうか?何故やるのだろうか?ということですよね。

-駒崎
そうですね。一見、得はしなそうですよね。

-川上会長
そうなんです。でも、これはちゃんとやるべき理由はあるんです。ほとんどのエンジニアは長い期間働いてくると、人生のどこかで精神的なバランスを保てなくなってくる時期が訪れるんです。そして生きる目的だったり、そういうところに悩んで結局いつかパフォ-マンスは落ちるんですよね。

-駒崎
なるほど。20代とかで頑張って頑張って働いていっても、いつか頑張れなくなるときが確実にくるってことですね。

-川上会長
頑張れる人はもちろんいるんですが、多くの人はバランスを保つのが難しくなります。そうなった時に家庭を持って、子どもを持つっていうことが、自分の生きる目的を再設定するきっかけになったりするわけです。そして再びバランスを保つことができるということがあるわけです。これは得をしてますよね。ただ家庭の方が大事になったりするので前よりも仕事が好きじゃなくなったりもします(笑)

-駒崎
たしかにそうですね。

救われる社員がいるなら合理的じゃなくてもやる

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-川上会長
では、この社員が家庭や子どもを持つという現象を、保育園を作ったり、結婚を奨励することによって、起こせるとしましょう。初期投資はもちろん無茶苦茶かかるわけなので、純粋に損得勘定を考えると、計算して良いか悪いか計算結果が出ます。

別に、さっきいったように結果として社員が会社のために働く気が上がるか下がるかみたいなモデルでなくても、もっと簡単な、例えば社内保育園をつくることと、社内保育園にくるような子どもをもつ社員に一人月20万円を支給して自分でなんとかしてもらうのとどっちが安いかとか、いろいろな計算や議論が考えられます。でも一旦それは全て考えないことにしようということです(笑)

-駒崎
なるほど(笑)一旦損得は考えないことにしようと。

-川上会長
そうです(笑)ただ、損得結果は考えなかったとしても、どっちにしても、そのことによって救われる社員はいる。共に働いていける社員が増える。これは事実だと。たしかに、パフォ-マンスが落ちる社員もいるかもしれない。多分いる。それも事実だけど、救われている社員がいることはとてもいいことだし、どっちが得かとか考えるのはやめよう

これは僕らがなりたい企業のイメ-ジとしても合っているから、そこはもう信じようと。損得に関してちゃんと計算して結論を出すことも、それもやめようと。そこは僕らの進むべき道ではないと。そういう決意が大事だと思うんですよね。

-駒崎
たしかに。面白いですね。経済合理性だけの意思決定だったらAI(人工知能)が決めたっていいと思うんですよね。でも会社って経済合理性だけじゃなくて、ある種の理念に向かって進んでいくというところがありますもんね。

-川上会長
経済合理性はもちろん追求すべきものだとは思うのですが、それが全てを統べる理屈として、突き詰めてはいけないと思っているんです。これを上場企業である僕らが言うのはおかしいのですが、その矛盾する不合理性というのは持っていたいんです。

ただ、上場企業としての正当化の理由も考えてあって、僕らはエンターテイメント企業なんですよね。一般消費者に向けて夢を売る商売なわけです。その一般消費者である人間というのは、もともと不合理な生き物なんですよね。不合理な人間に僕たちはモノを売って商売をしているのだから、僕たち自身が不合理性を持っていることは、最終的にはきっと支持される。そう思うことにしようと(笑)

この仮説が本当に正しいかは、僕にもよく分からない部分はあるけど、正しいかどうかにも興味はないんです。そこを考えることもやめようと。これは上場企業である我々の個性としてむしろ誇っていこうと。そう思うことにしています(笑)

どうせ誰かがやることはやらない。この時代に自分こそができることを。

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-駒崎
なるほど。それは合理的な説明ですね(笑)哲学みたいですね。川上会長の面白くて魅力的だなぁと思うところは、理系的な非常に合理的な考えを持ちつつ、アートだったり哲学的な思想を両方持ち合わせているところだと思うんですよね。組織とは別に川上会長自身を突き動かすモチベ-ションの源泉みたいなのは何になるんでしょうか?

-川上会長
ないんですよね(笑)

一同大爆笑

-川上会長
合理的に考えるとないんですよ。あるわけがないと(笑)合理的に考えたら経営者なんてこんな大変なこと、やらないほうがいいんですよ(笑)ある程度正常な判断ができる人であればそんなことわかるはずなんです。

-駒崎
なるほど!でも確かに、ありがちなモチベーションの「女性にもてたい」とかもパートナーに全ての予定を公開している時点で、選択肢としてはなくなるわけですもんね。

-川上会長
ないというか、非常にリスキーな選択肢ということですね(笑)

-駒崎
そうですね(笑)また、金銭的な面でも、ビル・ゲイツのようになりたいとかであれば別ですが、特に現状以上にものすごくお金が欲しい、というのもあまりないと思うんですよね。

ただそうした分かりやすい理由や、自分をかき立てる欲望みたいなものはなかったとしても、使命感だったり、やはり川上会長自身を駆動させるものがあると思うんですよね。

-川上会長
んー。やはり合理的に考えたらやる理由みたいなのは明確にないと言い切れるんです。使命感みたいなものも僕は持たないですし。ただその中で、あるとしたらある種の責任感みたいなものはあるかもしれないです。その時その場所にいる人しか出来ないことってあると思うんですよね。自分がやらないとそれをやる人がいないだろうな、というようなことに関してはやってもいいかなと思うし、やるべきじゃないかなとは思いますね。

-駒崎
なるほど。今この時代にここで自分こそができることがある。あるいはこれが自分のすべきことなんだと思ったことをやっているということなんですかね。

-川上会長
そうですね。そういうのを見つけながらやっているって感じですね。これ儲かるなぁってわかってることでも、他の人がやってる仕事とかは全くやりたくないんですよね。まったくやる気にならない(笑)別に自分がやらなくてもいいじゃんって(笑)

-駒崎
すごくわかります。僕は児童福祉がフィールドですが、その中でも必要かもしれないけれど、これは僕じゃなくても誰かがやるな、できるなって思ってしまうことに関してはどこか力が入らないというか、自分だからこそできるって思った時のモチベ-ションとは離れたものがありますよね。

-川上会長
そうですね。そういうのはやってもいいなって思いやすいですよね。

対談の続きは近日公開!
「ドワンゴ川上会長 子どもの不幸を考えると気が狂いそうになる」


【4月19日はみんなの保育の日!】

※4月19日が4(フォ-)19(いく)であることから、同日を「みんなの保育の日」(※日本記念日協会に正式認定取得済)とし、イベントの開催日としました。

4/19当日は、六本木ニコファーレにてイベント開催予定◎
(入場無料/授乳&オムツ替えスペースもご用意しています)

詳細はこちら
http://419.jp/

イベントページはこちら
https://www.facebook.com/events/1258538517564312/

※イベント当日は、下記サイトにてニコニコ生放送も実施します
http://live.nicovideo.jp/watch/lv293012379

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編集部より:この記事は認定NPO法人フローレンス運営のオウンドメディア「スゴいい保育」より、2017年4月13日の記事を転載しました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は「スゴいい保育」をご覧ください。