「共謀罪」2005年政府案と2017年政府案の比較

TBS報道特集のインタビューで前回の共謀罪法案議論を振り返る早川氏(編集部)

2005年の第163回国会に提出された政府案は共謀罪法案だと一般的に呼ばれているが、2017年3月の第193回国会に提出された法案がかつての共謀罪法案とはまったく別のものと言えるか、という点について多少の考察をしておきたい。

比較の対象とするのは、組織的犯罪処罰法の第6条の2第1項各号列記以外の規定である。

〇第163回国会提出政府案の規定
(組織的な犯罪の共謀)
第6条の2 次の各号に掲げる罪に当たる行為で、団体の活動として、当該行為を実行するための組織により行われるものの遂行を共謀した者は、当該各号に定める刑に処する。ただし、実行に着手する前に自首した者は、その刑を減軽し、又は免除する。

〇第193回国会提出政府案の規定
(テロリズム集団その他の組織的犯罪集団による実行準備行為を伴う重大犯罪遂行の計画)
第6条の2 次の各号に掲げる罪に当たる行為で、テロリズム集団その他の組織的犯罪集団(団体のうち、その結合関係の基礎としての共同目的が別表第3に掲げる罪を実行することにあるものを言う。次項において同じ。)の団体の活動として、当該行為を実行するための組織により行われるものの遂行を二人以上で計画した者は、その計画に基づき資金又は物品の手配、関係場所の下見その他の計画をした犯罪を実行するための準備行為が行われたときは、当該各号に定める刑に処する。ただし、実行に着手する前に自首した者は、その刑を減軽し、又は免除する。

法文の見出しが、「組織的な犯罪の共謀」から「テロリズム集団その他の組織的集団による実行準備行為を伴う重大犯罪遂行の計画」と変わっていることは確かである。

したがって、共謀罪から計画罪に変更になっているではないか、今回の政府案はかつての共謀罪法案とはと根本的に違うという議論は一応成り立つのだが、しかし共謀と計画に具体的にどれほどの違いがあるのか、ということを検討してみると、どうも同じことを別の表現で言っているだけではないかしら、ということになってしまう。

共謀も計画もいずれも内心の動きに留まるものであり、計画という文言が具体的な計画書などの表象を求めていないのであれば、結局は共謀も計画も同じことだ、ということになる。

実行準備行為が伴うことを処罰の要件とする等法案の表現ぶりは大きく変わっているが、計画という内心の動きを処罰の対象にしようとしている点では、かつての共謀罪法案と基本的に同じ路線の上に立っている法案だと見做しても決して間違いではないだろう、というのが私の考えである。

共謀罪法案についての従前の国会審議の成果を正しく継承した方がいいだろうという判断で、私が今回の政府案を共謀罪関連法案と呼んでいるだけであることは、私のブログを読んでおられる読者の皆さんにはある程度了解していただけるのではないかしら、と思っているのだが、さて、如何だろうか。

私としては、

①対象犯罪が真にテロ犯罪等の重大犯罪に限定され、

②「計画」についての定義規定が設けられて従前の「共謀」とは別の概念だということが明記され、

③「テロリズム集団その他の組織的集団」の文言が「テロリズム集団及びこれに類する、重大犯罪の遂行を計画する組織的集団」などと変更され、

④さらに、配慮事項や留意事項が法案に明記されるようになれば、確かにこの法案は従前の共謀罪法案とは別のものである、と認めることには吝かではない。

しかし、現時点では法案の審議が具体的には始まっていないようなので、当面は共謀罪関連法案と呼ぶことにさせていただく。

なお、私のブログの読者の方から、「目配せ」が入る余地は今回の政府案にはどこにもないではないか、という指摘があったが、まあ、それはそうだろうな、というのが私の見解である。

かつて社民党の衆議院議員の保坂さんが衆議院の法務委員会の質疑でそういう質問をされて世論が沸騰したことがあったので、10年前の自民党法務部会内の条約刑法に関する検討小委員会の取りまとめの文章の中にそういう一文が盛り込まれただけのことで、私が「目配せ」議論に賛意を表したわけではない。

共謀罪関連法案に付加すべき配慮規定や留意事項の書き方あれこれ

今通常国会に提出された共謀罪関連法案に特徴的なのは、配慮規定や留意事項が欠落していることである。

政府当局は、政府案を読めばそんあ懸念は一切ないのだから、わざわざ配慮規定を置く必要はないし、まして留意事項などは法の運用の妨げになるから無用だ、などと思っているのだろうか。

2005年10月4日に提出された政府案には、逮捕・勾留の追加要件もなければ、配慮規定もなかったのだが、今国会に提出された政府案にも同様に、何もない。

しかし、2006年の通常国会で、私たちは国会の意思として配慮規定を置くこととした
2006年4月21日に自公修正案として提出した修正案には、次のような配慮規定を置いた。

「3 前2項の規定の適用に当たっては、思想及び良心の自由を侵すようなことがあってはならず、かつ、団体の正当な活動を制限するようなことがあってはならない。」

同年5月19日に提出した自公再修正案では、次のような表現に改めている。

「3 前2項の適用に当たっては、思想及び良心の自由並びに結社の自由その他日本国憲法の保障する国民の自由と権利を不当に制限するようなことがあってはならず、かつ、労働組合その他の団体の正当な活動を制限するようなことがあってはならない。」

2006年6月16日の通常国会閉会直前の法務委員会の議事録の末尾に添付してもらった自公修正試案には、逮捕・勾留の追加要件として「3 前2項の罪については、第1項に規定する準備その他の行為が行われたことを疑うに足りる相当な理由があるときに限り、刑事訴訟法(昭和23年法律第131号)の規定により、逮捕し、又は勾留することができる。」という要件を追加したうえ、次のような配慮規定を置くこととした。

「4 第1項及び第2項の規定の適用に当たっては、思想及び良心の自由並びに結社の自由その他日本国憲法の保障する国民の自由と権利を不当に制限するようなことがあってはならず、かつ、労働組合その他の団体の正当な活動を制限するようなことがあってはならない。」

私のブログの読者の中には法制執務に詳しい方がおられ、こうした配慮規定はそもそも法文になじまない、せいぜいが政令で決めればいい事項だろう、と仰っておられたが、私どもが策定した自公修正案には、しっかり配慮規定を書き込んでいたものである。

まあ、色々ご意見はあるだろうが、配慮規定を書き込むべし、というのが11年前の与党の考え方であった。


編集部より:この記事は、弁護士・元衆議院議員、早川忠孝氏のブログ 2017年4月14、15日の「共謀罪」関連記事をまとめて転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は早川氏の公式ブログ「早川忠孝の一念発起・日々新たに」をご覧ください。