4月13日に日本国債の10年債利回りは0.005%に低下しゼロ%に接近した。10年国債の利回りは長期金利とも呼ばれる。日本の長期金利が初めてマイナスとなったのは、2016年2月9日のことであった。日銀は2016年1月29日の金融政策決定会合で「マイナス金利付き量的・質的緩和の導入」を決定した。これを受けて債券券市場では当座預金金利の一部のマイナス化によりイールドカーブの起点が引き下げられることや、超過準備に残すよりも国債保有のインセンティブも働くことになるため、国債の利回りが大きく低下してきた。その結果、マイナスに低下したのである。
その後、2016年3月に長期金利はマイナス0.100%台まで低下し、7月27日にはマイナス0.295%まで低下した。これにはヘリコプターマネーへの思惑など強まり、日銀の追加緩和期待なども影響していた。しかし、7月28日の日銀金融政策決定会合では、金融政策の強化を決定、これはETFの買入を現行の3.3兆円から6兆円とすることや、企業・金融機関の外貨資金調達環境の安定のための措置に止まり、一部期待のあったマイナス金利の深掘りや国債買入の増加などは見送られた。ここでいったん長期金利のマイナス幅は縮小することになる。8月2日には10年国債入札などをきっかけに0.100%を割り込むが、この動きには日銀の次の一手に対する思惑も働いていた。銀行などからマイナス金利の弊害が指摘されはじめていたためである。
9月21日の金融政策決定会合では、長短金利操作付き量的・質的金融緩和政策を決定した。これは長短金利の操作を行う「イールドカーブ・コントロール」と物価上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで資金供給拡大を継続する「オーバーシュート型コミットメント」が柱となった。従来、日銀自らコントロールできないとしていた長期金利をコントロール下に置くことになる。これの隠れた目的はイールドカーブのスティープニングにあった。
21日に長期金利は0.005%を付け一時的にプラスに転じたがすぐにまたマイナスに戻ってしまった。それでも日銀の意図が次第に浸透するなか、超長期ゾーンの利回りが上昇し、10年債利回りもゼロ%に接近した。日本の長期金利が再びプラスに転じたのは、11月16日であり、これはトランプ大統領の誕生を受けての米長期金利の上昇も背景にあったといえる。その後、12月16日に日本の10年債利回りは0.1%をつける。市場参加者は日銀の長短金利操作の長期金利の目標値ゼロ%の範囲を意識し、これはプラスマイナス0.1%あたりとの認識を強め、これ以降はゼロ%から0.1%の間での推移となった。
今年に入り、米10年債利回りは3月につけた2.6%台でいったんピークアウトした。トランプ政権への政策実行力に疑問符が付いたことや、欧州でのフランス大統領選挙への警戒、さらにFRBの年内複数回の利上げをすでに織り込み、むしろFRBの利上げに向けた慎重姿勢も好感されて、次第に米長期金利は低下した。ここに北朝鮮を巡る地政学的リスク等も意識されて、4月13日と17日に日本の長期金利が0.005%にまで低下したのである。
日銀の国債買入での長期ゾーンの買入の減額観測もあるが、すでに長期金利が0.005%まで低下してきている以上、きっかけ次第では今後、ゼロ%やマイナスになる可能性はありうる。そのカギを握りそうなのは北朝鮮情勢や米長期金利の動向次第という面が強いと思われる。
編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2017年4月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。