森友と豊洲移転を政治問題化させた大衆の同調メカニズム

藤原 かずえ

世間を賑わす「森友問題」や「豊洲移転問題」は、問題事案に関わる政敵を【悪魔化 demonization】する【ポピュリズム populism】を展開して人気増大を目論む一部政治家の思惑と、不満のはけ口となるような人物を【スケイプゴート化 scapegoating】する【センセーショナリズム sensationalism】を展開して売上増大を目論むマスメディアの思惑が一致した【政治ショー political entertainment】の【キラーコンテンツ the most popular content】であり、公共インフラである国会と電波を長期間無駄に占有すると同時に喫緊の重要課題が山積している政治を不合理に停滞させるに至っています。この【政治ショー】の原動力となっているのが、一部政治家&マスメディアの不合理な論調に【同調 conformity】させられている【大衆 the masses】の存在です。この記事では、「森友問題」と「豊洲移転問題」を対象として、話題の【忖度 sontaku】という行動と絡めて、【大衆】がどのようなメカニズムで一部政治家&マスメディアに【同調】するに至るのか分析してみたいと思います。

日本社会における同調の特徴

聖徳太子が制定したとされる十七条憲法は、ほとんどの日本国民が一度は聞いたことがある「和をもって貴し」の一節から始まります。

(十七条憲法第一条)

以和為貴。無忤為宗。人皆有黨。亦少達者。是以或不順君父。乍違于隣里。然上和下睦。諧於論事。則事理自通。何事不成。

(現代語意訳)「和」を実現して「争」を回避することが最重要事項である。「和」の下で議論して得られる意思決定は自ずと道理に適い、何でもできるようになる。

少なくとも近世において、十七条憲法は、日本歴史のスーパーヒーローの一人とされている聖徳太子が定めた「日本の国体を表現する道徳規範」として、多くの【大衆】が理解しているものと考えられます。特に冒頭の第一条に書かれた「【同調】すれば何でもできる」というビリーフは、論理的には誤謬である一方で、日本に強固な「暗黙の規則に従う厳格なコンプライアンス社会」を形成し、結果として得られた生産性の向上が明治以来のめざましい経済発展の原動力になったものと推察する次第です。

しかしながら、現在の日本国民が他国民と比較して【同調】しやすい傾向を持っているかと言えば、必ずしもそうとは言えません。東京大学の高野陽太郎教授が2000年代に実施した【同調】行動の心理学実験によれば、日本国民にはアメリカ国民と同程度の【個人主義 individualism】的傾向が認められ、内集団に対しても外集団に対しても顕著な【集団主義 collectivism】的傾向は認められないという結果が得られています[東大 記者発表]

このように科学的な面から「現代の日本国民はイントリンシックに同調しやすいとは言えない」ことが証明されたわけですが、欧米社会並みに日本社会に【同調】現象が少ないかと言えば、そうでないことは自明です。むしろ、日本社会では【大衆】の敵となる【スケイプゴート】が日常的に代わる代わる認定され、その反対方向に【世論 public opinion】が一斉に動く【同調】現象が頻繁に認められます。この原因を演繹的に推論すれば、日本社会には【同調】を促進する【同調圧力 peer pressure】が欧米社会に比べて強く作用しているいうことになります。そしてその【同調圧力】とは具体的に何かといえば、特定の事案に対して一斉に一方的な評価を繰り返し与えるマスメディア報道であることは自明です。

同調のメカニズム

【同調】とは、【多数派 the majority】の意見や行動に個人の意見・行動を合わせる【態度変化 attitude change】のことをさします。著名な心理学者のハーバート・ケルマン(Herbert C. Kelman)ハーヴァード大学教授は、論文「意見変更の過程 Process of opinion change」において、人間が意見を変更するプロセスとして次の3つのタイプがあることを示しています。

【追従 compliance】
「説得者に好かれたい」あるいは「説得者に嫌われたくない」という動機から【同調】することを言います。説得者との友好関係の良し悪しによって利害が生じる場合に、たとえ説得者の意見や行動が正しくないと思っていても、【同調】することによる【承認欲求 need for approval】を選択して【孤立への恐怖 fear of rejection】を回避するものです。「説得者から受け入れられたい」とする影響は【規範的影響 normative influence】と呼ばれます。心の中では説得者の意見や行動に賛同していない表面上の【同調】であるため、環境変化があれば被説得者は態度を変化することになります。

【同一視 identification】
「説得者と同じ考え方でいたい」という動機から【同調】することを言います。説得者に【対人魅力 interpersonal attraction】を感じている場合に、たとえ利害関係はなくても、個人的願望から【同調】するものです。願望による【同調】であるため、説得者に【対人魅力】を感じなくなったときに被説得者は態度を変化することになります

【内在化 internalization】
「説得者の考え方を正しいと思った」という動機から【同調】するものです。「自分の考え方よりも正しいと考えられる説得者の考え方を受け入れたい」とする影響は【情報的影響 informational influence】と呼ばれます。正しいと思っている考えに対する【同調】であるため、その後の態度の変化は起こりにくくなります。ここで注意が必要なのは「多数派の考え方が必ずしも合理的であるとは限らない」ということであり、不合理な考え方が多数派を形成しているとき、事は深刻であると言えます。説得者が自説の誤りを認める場合か、説得者の言説が他者から論破される場合、そして被説得者が自ら説得者の言説の不合理に気づくときに被説得者は態度を変化することになります。

なお、【追従】は外面からの同調という意味で【公的追従 public compliance】とも呼ばれ、【同一視】と【内在化】は内面からの同調であるという意味で【私的受容 private acceptance】と呼ばれます。

このように、【同調】はタイプによって異なるバックグラウンドを持っていて、【追従】→【同一視】→【内面化】の順にビリーフのレベルは深まっていきます。世間に種々存在する不合理な【同調】に対してトラブルシューティングするためには、【同調】のタイプを分析してそれぞれの原因に対して適切に対策することが必要です。

ケーススタディ(1):森友問題

「森友問題」は、明確な利益供与が認められない些細な事案をことさら深刻化させて事案に関係する政敵を【悪魔化】することで【ポピュリズム】を展開する野党の思惑と、不満のはけ口となる人物を【スケイプゴート化】することで【センセーショナリズム】を展開するワイドショーの思惑がピタリと一致し、憶測や誤情報を含めた無意味な議論を【協働 cooperation】して延々と続けた事例です。

一般にこのタイプの問題における政治家とマスメディアの【協働】プロセスは次の通りです。

(1) 特定の事案を新聞/週刊誌メディアがスキャンダラスに報道する。
(2) メディア報道を根拠に野党が政府を国会で追及する。
(3) テレビメディアがその追及の様子を一斉に報道し、一方的に政府の対応を批判する。
(4) 野党がテレビメディアの論調を「国民の声」と言い変えて、政府を追及する。
(5) 野党&メディアが(3)(4)の協働プロセスを再帰的に繰り返し、事案を混迷させる。
(6) 一連の報道に晒された一部【大衆】が野党&メディアに【同調】し、曖昧な【多数派】を形成する。
(7) テレビ視聴率が上昇し、【世論】調査で内閣支持率が低下する。
(8) 【世論】の高まりを感じた多くの【大衆】が曖昧な【多数派】に【同調】する。

このようなプロセスが成功するには、一部政治家(主として野党)・一部マスメディア(主としてワイドショー)の【協働】と一部【大衆】(主として情報弱者)の連動が必要条件となります。逆に、三者のうちいずれかが与しないときには、騒動は発生しないと言えます。それにもかかわらず、年中行事のように、類似の騒動による国会ジャック&電波ジャックが頻繁に発生している現状は、極めて深刻であると言えます。

森友問題の場合、上記プロセスの(6)(8)にある【同調】の主要なタイプはいずれも【内在化】によるものです。このうち(6)については、圧倒的に偏向した【アジェンダセッティング agenda setting】によって情報を繰り返し与える【単純接触効果/熟知性 mere exposure effect】や【御用コメンテーター spin doctoring】の一方的な見解の一致による【プロパガンダ propaganda】など野党&ワイドショーの【情報歪曲 distortion】(情報操作・心理操作・倫理操作)により情報弱者を内面から説得するものです。具体的には、【大衆】が政治家・テレビ司会者・コメンテイターの言説を無批判に信じる傾向を利用する【漠然的権威に訴える論証 vague appeal to authority】や、【大衆】が【多数派】を意識させる「国民の声」を主語とする言説を無批判に信じる傾向を利用する【大衆に訴える論証/情勢に訴える論証 argumentum ad populum / appeal to the bandwagon / appeal to consensus】を頻繁に用いていると言えます。

ここで、森友問題に関連した【世論】調査結果を具体的に検証してみたいと思います。

[報道ステーション世論調査 2017/02/25-26] 国有地の格安売却問題)

Q1:大阪府豊中市にある国有地が、評価額のおよそ9億5千万円よりも安い、1億3千400万円で、学校法人に売却されていたことが、国会で取り上げられました。あなたは、この土地取引について、国会審議を通じて事実関係を、はっきりさせる必要があると思いますか、思いませんか?
A1:思う83% 思わない7% わからない、答えない10% .

Q2:この国有地を買った学校法人は、買った土地に小学校を建設しています。安倍総理の妻、昭恵夫人が、その建設中の小学校の名誉校長に、先日まで就任していました。あなたは、昭恵夫人がこの私立小学校の名誉職に就いていたことは、適切だと思いますか、思いませんか?
A2:思う9% 思わない70% わからない、答えない21%

この【世論】調査には大きなミスリードがあります。まずQ1について、公正な社会の形成のために国政の諸問題に対して事実関係をはっきりさせる必要があることは自明であり、これについて国民が賛同を示すことは合理的であると言えます。問題は、このような設問の中に「国会審議を通じて」という制約条件をさらりと挿入している点にあります。「報道ステーション」はこの【世論】調査結果を根拠に「森友問題を国会で徹底的に審議するのは国民【世論】である」と解釈し、連日の過熱報道に繋がっていきます。そしてこのことが、野党による長期間にわたる国会ジャックを容認する根拠になっていることも自明です。このように言説の前提の中に好都合なキーワードをさりげなく挿入した上で言説の結論を認めさせ、そのキーワードが容認されたことを既成事実化することを【増殖の虚偽 fallacy of multiplication】と言います。

Q2については、「国有地を格安売却した相手が国の関係者を優遇するのは適切か」という意味の、事実が概ね判明している今となってはかなり的外れな【レトリカルクエスチョン rhetorical question】による誘導です。その論理を持ち出すのであれば、国有地を買って社屋を建設した朝日新聞、ならびに朝日新聞社が筆頭株主のテレビ朝日も、政府に対するポジティヴな報道を一切控える必要があることになります。客観的に考えれば、地方の一つの学校法人が国から優遇を受けていることよりも、国民【世論】に大きな影響を与えるマスメディアが国から優遇を受けていることの方が大問題であると言えます。

さて、どんな形であれ、政府にネガティヴな調査結果が一度出ると、野党&ワイドショーは「こんな説明では国民は納得しない」なる国民の内心を勝手に【忖度】した決まり文句を用いて政府を徹底的に攻撃するようになります。この言葉で多くの【大衆】は情勢を察知し、「野党とワイドショーの主張こそが国民の多数意見である」「多数意見の方が少数意見よりも信憑性がある」と【錯覚 illusion】します。ここに、上記プロセス(8)における【内在化】が発生し、【大衆】は野党&ワイドショーの言説に【同調】することになるわけです。森友問題の報道がピークに差し掛かった時期に実施した読売新聞の調査では、安倍内閣の支持率は前月よりも10%も低下しました。

[読売新聞世論調査 2017/03/18-19]

Q1:政府は、大阪市の学校法人・森友学園に、国有地を評価額より8億円余り安く売却したことについて、ごみの撤去費用分を差し引いたと説明しています。この説明に、納得できますか、納得できませんか。
A1:納得できる7% 納得できない85% 答えない8%

Q2:安倍首相は、森友学園への国有地売却を巡る問題で、首相や妻の昭恵さんの関与を否定しています。この説明に、納得できますか、納得できませんか。
A2:納得できる24% 納得できない64% 答えない12%

Q3:あなたは、稲田防衛大臣が、森友学園と自分の関わりを説明した国会での一連の答弁を、どう思いますか。
A3:大いに問題がある42% 多少は問題がある39% あまり問題はない10% 全く問題はない3% 答えない6%

この調査において「政府の説明に納得ができるか」という質問の方法にも致命的な問題があります。それは、ほとんどの【大衆】が国会における首相および大臣の答弁をすべて聴いているわけではなく、通常知り得る情報は、事案を【情報歪曲】しているマスメディアの情報に限られるからです。すなわち、ほとんどの【大衆】は、マスメディアによって編集された「首相および大臣の説明のごく一部」を聴くか、あるいはまったく説明を聴くこともなく、「説明に納得できるか」という質問に回答しているわけです。絶望的なことに、マスメディアはこのような大きな疑義を含んだ数字を堂々と独り歩きさせています。

さらに、社会心理学的観点から留意すべきことは、事案を正確に把握していないにもかかわらず「納得できるか、納得できないか」とマスメディアから質問された場合、【大衆】は「納得できない」と回答する傾向があることです。これは、他者から注目されるとその期待に応える行動に出てしまう【ホーソン効果 Hawthorne effect / observer effect】という認知バイアスの影響であり、【大衆】には、事案を問題視して質問しているマスメディアの質問意図を【忖度】して回答する傾向があることが明らかになっています。

そんな中、3月23日に籠池泰典氏が証人喚問されると、国民が実際にテレビ中継でその様子を確認することになり、籠池氏の言葉の信憑性に大きな疑念を持つようになった可能性があります。また、辻元清美議員の【ダブルスタンダード double standard / doublethink】を契機として【悪魔の証明 proving non-existence / evidence of absence】という言葉が話題になると、国民は野党&マスメディアの言葉の信憑性にも大きな不信感を持つようになった可能性があります。証人喚問後の[日経新聞世論調査 2017/03/27]によれば、「政府の説明に納得できない」という声がまだ多い一方で、安倍内閣の支持率は前月の60%から62%に上昇しました。素直に考えれば、森友問題による【情報的影響】はこの段階で既に大きく低下していたと推察できます。

「特定秘密保護法」や「安保法制」もそうでしたが、野党&マスメディアの言説には合理的根拠が存在しないため、【大衆】は一時的に【同調】しても、すぐに理性を取り戻して【同調】を解除したものと考えられます。

ちなみに、中央省庁の官僚に仮に【忖度】があるとすれば、それは「首相に好かれたい」あるいは「首相に嫌われたくない」という動機からの【追従】による【同調】であると言えます。まさに「人事」という【規範的影響】が作用することで、【同調】することによる【承認欲求】を選択して【孤立への恐怖】を回避するものであると考えられます。ただし、森友問題の場合、その便宜は情報提供にとどまり、籠池氏の要求に対してはゼロ回答であるため、実効性を伴った【忖度】の証拠は存在しません。

いずれにしても、この騒動で一人勝ちしたのは、短期的利益を上げたマスメディアです。例えば「報道ステーション」の視聴率は、森友問題勃発前よりも顕著にアップしています[Video Resarch]。その一方で、完全敗北したのは、長期にわたる国会ジャック&電波ジャックによる政治&社会の停滞で不利益を被った一般国民であることは間違いありません。

ケーススタディ(2):豊洲移転問題

「豊洲移転問題」は、豊洲市場という本質的に安全なインフラを共産党とワイドショーが不合理に危険視し、【風評 rumor】を流布するとともに自民党と過去の東京都組織を悪魔化した事案です。

共産党とワイドショーの【協働】プロセスは森友問題とほぼ同じですが、一つだけ大きな違いがあります。それは事業主体のトップである小池百合子東京都知事がこの不合理な中傷を一切否定しなかったばかりか、市場の安全性を科学的根拠なく追求する側に回りました。この都知事の行動によって風評はさらに拡大し、科学的にまったく安全な市場であるにもかかわらず、【大衆】が食の安全に対して大きな不安をもつ結果となりました。

一連の報道に晒された情報弱者が共産党&ワイドショーに【同調】するのは【内在化】によるものですが、小池都知事に【同調】するのは「都政を改革しようとしている小池都知事と同じ考え方でいたい」という動機からの【同一視】であると考えられます。情報弱者は、小池都知事の存在を【政治家 politician】としてではなく、芸能人と同様の属性である【有名人 celebrity】としてとらえている可能性が高いと考えられます。

東京都知事選挙のキャンペインが始まったころには、鳥越俊太郎候補に好意的な報道をしていたワイドショーでしたが、小池百合子候補が優勢になるにつれて次第にスタンスを変え、知事当選後には小池都知事を異常なまでに持ち上げる報道が主流となりました。テレビメディアはワイドショーを中心に、小池都知事の一挙手一投足を連日朝から晩まで繰り返し放映し、服装から他愛もない言動まで逐次非常に好意的に取り上げていました。人間は特定の人物の存在を繰り返し知覚するとその人物に親近感を持つことが知られています。これは先述した【単純接触効果】であり、小池都知事の【対人魅力】は大いに高まったものと考えられます。

基本的にマスメディアは、「伏魔殿と呼ばれる東京都庁にたった一人切り込んでいく高貴なヒロイン」というようなイメージを小池都知事に与える【戦略型フレーム strategic frame】の報道を繰り返し、小池都知事の政策を知らない情報弱者までもが、何もしていない小池都知事に対して大きな期待感を抱いたものと考えられます。もちろん小池都知事は非常に魅力的なパーソナリティをお持ちですが、そのことと行政の運営とはまったく別であり、この区別がつかない情報弱者がまんまとその【ポピュリズム】にはまってしまったと言えます。

その一方で、マスメディアは小池都知事の政敵の【悪魔化】も忘れていません。「都議会のドン」なる内田茂議員を悪のボスキャラとして設定し、「大きな黒い頭のネズミがいっぱいいることが分かった」という小池都知事の言葉を持ち出しては、都議会自民党を徹底的に【人格攻撃/人身攻撃 ad hominem / argumentum ad hominem】しました。ワイドショーは小池都知事の初登頂の時、議員が3人しか都庁前で出迎えなかったことを強く問題視したり、挨拶回りで自民党議員の応対が素っ気なかったことを問題視したり、その際に写真撮影をしなかったことについても異常なまでに批判しました(笑)。加えて、五輪問題で対立した森喜朗五輪組織委員会会長に対してもワイドショーは徹底的に【人格攻撃】しました。このような状況の中、次のような調査結果が得られました。

[朝日新聞世論調査 2016/09/10-11]

Q:東京都の小池百合子知事は、11月に予定されていた築地市場の移転について、土壌の安全性などを理由に、移転直前の8月に延期を決めました。小池知事が延期を決めたことを評価しますか。評価しませんか。
A:評価する71% 評価しない19%

この時期、「羽鳥慎一のモーニングショー」「ひるおび」「グッディ」「報道2001」等のワイドショーは、勝手な道徳を振りかざす司会者と不合理なコメントを連発するコメンテイターが一体化して視聴者のヒステリックな感情を極限まで引き出していたと言えます。その結果、情報弱者は、【モラル・パニック moral panic】を発生し、【風評】が日本社会に定着しました。なお、これらの番組が日本社会に及ぼした不利益については今後しっかりと検証したいと考えます。

ワイドショーに【悪魔化】された都議会自民党は批判の高まりを恐れ、小池都知事に対して協調姿勢をとり、都知事が独断で行った豊洲移転延期についても対決姿勢をとりませんでした。そんな中での移転の可否を問う調査の結果、移転を「目指すべき」と「やめるべき」が拮抗する形となりました。

[朝日新聞世論調査 2016/10/15-16]

Q:東京都の築地市場を豊洲に移転する計画についてうかがいます。現在、土壌の安全性などを理由に移転が延期されています。豊洲への移転を今後も目指すべきだと思いますか。やめるべきだと思いますか。
A:目指すべきだ40% やめるべきだ39%

大部分が科学的判断能力を有していない一般大衆に「移転の可否」をべき論で問う調査はまったく無意味ですが、このような数字を独り歩きさせて売り上げを伸ばすのがマスメディアの企業活動であると言えます。1月に環境基準の79倍のベンゼンが検出されたことをうけた同様の調査では、「やめるべき」が「目指すべき」を14ポイントも上回りました。

[朝日新聞 2017/02/18-19]

Q:東京都の築地市場を豊洲に移転する計画についてうかがいます。現在、土壌の安全性などを理由に移転が延期されています。豊洲への移転を今後も目指すべきだと思いますか。やめるべきだと思いますか。
A:目指すべきだ29% やめるべきだ43%

環境基準の79倍のベンゼンは計算上は豊洲市場の環境にまったく影響を及ぼすことがない量と言えますが、一部の【大衆】は黙っていられないようです(笑)。ワイドショーは79倍という値を繰り返し報道して独り歩きさせました。もっぱらMVPは、ワイドショーをハシゴして善良な市民の不安を煽った政局巷談家の鈴木哲夫氏であると考えます。科学的知識をまったく有していない人物が、【キッチン・キャビネット kitchen cabinet】の言葉を根拠にして、移転の可否を放言していることには強い不条理を感じるところです。[豊洲市場移転問題で飛び交う「誤謬」と「偽説」]

さて、暗礁に乗り上げていた豊洲移転ですが、その後、宇佐美典也さん・池田信夫さん・足立康史議員らによる合理的な言論、SNSの皆さんの絶え間ない精力的な意見表明と追及、専門家会議ならびに中西準子先生・米田稔先生といった真の専門家による安全宣言、そして態度変更した都議会自民党の議会追及などにより、小池都知事の主張の疑義が顕在化してきました。【大衆】を【同調】させていた小池都知事の【対人魅力】にも陰りが見えてきて、報道メディアの論調も変化しつつあります。そんな中、4月の調査で【世論】にドラスティックな変化がありました。

[朝日新聞世論調査 2017/04/01-02]

Q1:築地市場の豊洲移転をめぐる問題についてうかがいます。あなたは、築地市場の豊洲への移転を今後も目指すべきだと思いますか。やめるべきだと思いますか。
A1:今後も目指すべきだ55% やめるべきだ29%

Q2:(「今後も目指すべきだ」と答えた55%の人に)それでは、豊洲市場へは、今の状態で移転してよいと思いますか。それとも、さらに安全対策をとった上で移転するべきだと思いますか。
A2:今の状態で移転してよい29% さらに安全対策をとった上で移転するべきだ68%

Q3:あなたは、豊洲市場はどの程度安心だと思いますか。(択一)
A3:大いに安心6% ある程度安心31% あまり安心ではない41% 全く安心ではない19%

Q4:小池知事は「豊洲市場は、法的に安全な水準を満たしているが、消費者の安心を得られていない」として移転の判断を先送りしています。あなたは、小池知事が判断を先送りしていることを評価しますか。評価しませんか。
A4:評価する54% 評価しない37%

Q5:あなたは、豊洲市場に移転するかどうかについて、こんどの都議選の争点にしてほしいと思いますか。争点にしなくてもよいと思いますか。
A5:争点にしてほしい40% 争点にしなくてもよい53%

まだまだすべての科学的誤解が払拭されているとは言えませんが、「移転を今後も目指すべきだ」という回答が55%にのぼり、明らかに共産党とワイドショーが振りまいた【風評】の勢いは弱体化していると考えられます。小池都知事に対する反論がマスメディアでささやかれ始めたことから、孤立への恐怖から【大衆】を沈黙させていた【沈黙の螺旋 spiral of silence】も解消されつつあります。残るは「【安全 safety】と【安心 reassurance】は違う」という奇妙なビリーフの払拭です。誤解してはならないのは、科学的な【安全】はすでに【安心】を十分に織り込んだ値であるということです[安全と安心と築地と豊洲-「安心神話」というケイオス]

エピローグ

【ポピュリズム】を展開する政治家ならびに【センセーショナリズム】を展開するマスメディアに【大衆】が【同調】することで社会は停滞し、事案のステイクホルダーは大きな損害を被ります。公正な社会を運営するにあたって、【大衆】を構成する私達は、【ポピュリズム】【センセーショナリズム】の疑義がある言説に対して安易に【同調】することなく合理的に判断することが重要であると考えます。また同時に、詐欺的な【ポピュリズム】【センセーショナリズム】を合理的に批判し、その発生を抑制することも重要であると考えます。

さて、最後に【同調】に関連して、非常に興味深いブログ記事があるので引用させていただきます。

(宇佐美典也さん [音喜多先生に送る言葉]

前に一度音喜多先生について書いた時に 、私と彼との関係性については「仲が良くない同級生」と例えましたが、それは今も変わりません。そんなわけでこんなところで私が何か彼に意見しようが、彼が聞き入れる可能性は非常に低いのですが、まぁそれでも私なりに彼について思うことを以下書き連ねます。

(本論 略)

さて最後になぜこのような記事を書いたのか、ということなのですが、私自身ここで彼が政治家として自らの力と意志で自分のポジションを立て直さなければ、もう彼の政治生命はないと思っているからです。(中略)私は音喜多先生のことを友達とは思っていませんし、彼も私のことを友達とは思っていないと思いますが、私としても数年近くにいた身として多少の情はあります。なんとか立ち直って欲しいと願うところです。

表現がやや過激なので(笑)穏やかでない印象を持ちますが、勝手に【忖度】させていただきますと、この記事は、宇佐美典也さんによる音喜多駿議員に対する提言集です。当然のことながら、提言とは提議した言説への【同調】を促すものであり、宇佐美さんは「音喜多議員がこの提言に【同調】することは合理的である」と考えていらっしゃると思います。加えて、宇佐美さんは、上に示した提言以外の部分において「規範的な【追従】による【同調】ではなく、情報的な【内面化】による【同調】が必要である」という制約を加えられているものと理解する次第です。

もちろん音喜多議員がこの提言に【同調】されるかどうかはわかりませんが、少なくとも音喜多議員はこの文書を読んで、宇佐美さんの文意をご理解されているのではと推察するところです。

というわけで、最後にめちゃくちゃ【忖度】して書いてしまいましたが(笑)、案外、宇佐美さんは何も考えずに本心をそのまま書かかれただけなのかもしれませんし、音喜多議員も「何と無礼な文書だ」と思われているかもしれません(笑)。人間の気持ちを【忖度】することは不可能ですし、たとえ「その【忖度】は正しい」と【忖度】された側が認定したとしても、それが真実であるかは疑問です。森友問題で野党や一部テレビメディアは、【忖度】があったかなかったかを、「嘘をつくことができない」とされる証人喚問の証言によって明らかにしようとしていましたが、悪い冗談はそのくらいにしておいていただきたく思います(笑)


編集部より:この記事は「マスメディア報道のメソドロジー」2017年4月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はマスメディア報道のメソドロジーをご覧ください。