フランス大統領選挙の投開票が23日、実施され、無所属のエマニュエル・マクロン前経済相(39)が約23・7%の得票を獲得し第1位、それを追って極右派政党「国民戦線」のマリーヌ・ルペン党首が約21・9%で第2位に入った。この結果、5月7日の決選投票ではマクロン氏とルペン氏の戦いとなった。
一方、中道右派「共和党」のフランソワ・フィヨン元首相(63)は19・7%、急進左派「左翼党」のジャンリュック・メランション氏(65)は約19・2%に留まり、決選投票進出を逃した。オランド現大統領の出身政党・社会党が推すブノワ・アモン元厚相は得票率6・2%と2桁を割り、歴史的敗北を喫した。投票率(暫定)は約77%と2012年(79・5%)よりわずか下がった。
11人の候補者が出馬した大統領選の主要争点は、、欧州連合(EU)の離脱の是非、難民・移民対策、テロ対策、それに国民経済の立て直しの4点だった。経済的に停滞しているといっても、フランスはフランスだ。政治・外交分野では依然、ドイツと肩を並べて発言できる数少ない国だ。その大統領選は、9月24日に実施されるドイツ連邦議会選と共に、欧州の未来を決める今年の重要な政治イベントとして注目されてきた。
第1回投票の結果は大方の予想通り、親EUのマクロン氏と反EUのルペン党首が決選投票に進出したが、決選投票ではマクロン氏が圧倒的に有利と見られている。なぜならば、他の候補者、政党、支持者が反ルペンで結束することが予想されるからだ。そのため、マクロン氏は現時点で次期大統領に最も近い。
ちなみに、欧州政界が恐れてきたシナリオは、極右派のルペン氏と極左派のメランション氏が決選投票に進出した場合だった。両者はEUの離脱を主張してきただけに、ブリュッセルにとって最悪のシナリオは回避されたわけだ。
ところで、欧州の政情は、①従来の既成政党が腐敗や汚職、無策で有権者の信頼を失い、厳しい批判にさらされている、②難民・移民の欧州殺到を受け、大衆迎合派指導者が国民の支持を拡大。ただし、ポピュリズム政党は選挙の度に得票率を伸ばすが、政権交代や大統領選の勝利といった大飛躍はこれまで阻止されてきた。オーストリア大統領選やオランダ下院選挙(3月15日)の結果はそのことを裏付けている、③英国のEU離脱決定を受け、EU加盟国内の結束が揺れていることだ。
①を実証するように、フランスでは従来の大政党、共和党の候補者フィヨン元首相と社会党の候補者アモン元厚相は決選投票に進出できなかった。両候補者の得票数は合わせても有権者(約4700万人)の約4分の1に過ぎない。有権者の既成政党離れが急速に進んでいるわけだ。
オーストリア大統領選(昨年4月)でも同じだった。戦後から今日まで社会民主党と国民党の2大政党が政権を主導してきたが、大統領選では両党が擁立した大統領候補者がいずれも第1回投票で敗北し、決選投票に進出できなかった。
大統領選の決選投票は昨年12月、野党の極右派政党「自由党」と「緑の党」の候補者の間で行われ、アレキサンダー・バン・デア・ベレン氏が極右政党「自由党」の候補者ノルベルト・ホーファー氏を破り当選した。決選投票では、「極右派候補者を大統領にしてはならない」として反自由党網が作られた。同じ展開がフランスでも濃厚だ。
なお、投票日の3日前(20日)、パリのシャンゼリゼ通りで警官3人が死傷する銃撃テロが起きた。そのショックが大統領選に影響を及ぼすのではないかと予想されていた。フランスでは23日、約5万人の警察官と7000人の兵士が全国で動員され、厳戒態勢を敷いた。非常事態宣言下で大統領選が実施されたのは同国で初めてだ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年4月24日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。