さる2017年3月21日、国会の委員会のひとつである、参議院厚生労働委員会が開催されました。本委員会のテーマは育児・介護休業法。
子育て分野の有識者として私、認定NPO法人フローレンス代表の駒崎が参考人として招致され、男性の育児休業・育児参画について提言を行ってきました。その内容をご紹介します。
男性の育休が増えない!取得率はいまだ2.6%の低水準
少子化問題解決のためには、男性の育児参画が欠かせません。実際に、厚生労働省の調査によれば、夫の家事・育児担当時間が多いほど、第二子以降をもうけやすいというデータが得られています。
男性の家事・育児参画のひとつの指標となるのが、育児休業(以下、育休)の取得率です。
ここ数年の数値を見ても、女性の育休取得率が80%以上であるのに比べ、男性の場合、過去最高となった2015年度でも、2.65%の取得率に過ぎません。
なぜ、男性の育休取得率はこれほどまでに低いのでしょうか。
調査によれば、男性社員が育休を取得しなかった理由として多いのは、「職場が育休を取得しづらい雰囲気だったから」というものです。
育休の制度は存在しても、職場の雰囲気がそれを利用できるものではないーーそんな状況を改善するため、これまでもさまざまな取組みが行われてきました。
私が座長を務める、厚労省イクメンプロジェクトもまさにそのひとつ。
さらには、厚労省やNPO法人ファザーリング・ジャパンなどが中心となり、「育児に理解のある上司を増やそう」というムーブメントを起こすべく「イクボス」という言葉を生み出し、それを推進するために「イクボス企業アワード」等を発表、啓発活動も行ってきました。
昨年起こった、電通社員が亡くなる事件等も重なり、世の中の雰囲気が少しずつ変わってきています。しかし、劇的に改善していく傾向はまだ残念ながらありません。
そこで今回の参議院厚生労働委員会で私から提案したのが、「男性産休」というアイディアです。
「男性産休」:1−2週間の短期間で育休を取りやすく
男性の育休取得状況をよく見てみると、その期間は1ヶ月未満が8割を超えています。
まだまだ、男性が「長期的に職場を離れる」ことには、心理的な抵抗が男性自身にも職場にもあることが分かります。であれば、そうした状況を前提に、育休の手前にもう一つ階段を作ろうというのが「男性産休」のアイディアです。
「そんなに短い期間で意味があるのか?」と考える方もいるかもしれません。しかしこの男性産休には実績があります。それは合計特殊出生率が先進国の中でも高い水準となっているフランスです。(2012年時点で日本の出生率が1.41であるところ、フランスは2.0)
フランスでは2002年に11日間の「父親休暇」という名称で、男性産休を法制度化しました。2013年には、約7割の対象者が父親休暇を取得、そのうち95%は11日間全日数を消化しています。
この父親休暇、単に取得率が高いというだけでは終わりません。DREES(フランス政府調査評価統計局)は、子育て作業の父母負担に関して、父親産休の取得者数とクロス調査を行ない、両者の間に相関関係があることを報告しました。
父親産休を取得した父親は、その後も子供の世話により多く参加しているということがわかったのです。
こうした実績を踏まえ、日本でも男性産休のための制度として「育児目的休暇」などを新設するなどし、大々的にアピールしていくことで、男性の育児参画度合いがより高まっていくでしょう。
なお、この男性産休は、実は日本でも一部制度化されています。それは、国家公務員の休暇制度です。男性の国家公務員には、「配偶者出産休暇」2日と「育児参加休暇」5日という休暇制度があります。
内閣人事局は平成26年度に、国家公務員の女性活躍とワークライフバランス推進のための取組方針を定めています。そのひとつが、この2つの休暇をあわせて5日以上取得する男性職員の割合を平成32年度までに100%にするということ(全省庁共通)。現状の取得率は、30.8%です。
ちょうど昨年の12月、安倍総理も「国家公務員の男性は、全員『男性産休』を」と発言しています。まずは国家公務員の男性産休取得率を100%にするよう、全省庁で徹底し、同時並行的に、民間でも「男性産休」を採り入れていくように促していくべきでしょう。
親族が亡くなった時などは、多くの会社で、忌引き(慶弔休暇)として3日~10日間休むことができます。すでにある慶弔休暇の文化を鑑みれば、これからの世の中を担う新しい命の誕生を祝い、「親になる」ことを支援するための休暇としての男性産休も、ごく自然のことととらえられるのではないでしょうか。
親族が亡くなって休むのですから、産まれても当然休みますよね?と。
制度での後押しとして、障害者雇用と同様に男性の産育休取得を準義務化
「男性産休」の制度化に加えて、男性の育休取得を浸透させるもうひとつの施策として考えられるのが、法定取得率の設定です。
考え方としては、障害者雇用の制度を参考にします。障害者雇用においては、法定雇用率が設定され、それを下回ると、企業はペナルティとして「障害者雇用納付金」を支払わなければなりません。
集められた障害者雇用納付金を財源として障害者雇用調整金、報奨金、在宅就業障害者特例調整金、在宅就業障害者特例報奨金、及び各種助成金の支給を行っています。
この障害者雇用率と障害者雇用納付金の制度によって、平成28年度の民間企業における雇用障害者数は 47 万4,374人と、過去最高を記録しており、障害者の就労を大きく伸ばしています。
同様に、男性の産・育休も、取得率が一定水準以下の場合はペナルティとして納付金を課し、それを財源に企業の子育て支援関連助成金を充実させていく、ということも可能ではないでしょうか。
もちろん、中小企業と大企業では人員補填の難易度も異なるので、企業規模によって取得率の水準を変えるなどの工夫は必要かもしれません。
いずれにせよ、ボトムアップから育休を取りやすくする制度・風土の改善と並行して、会社としてトップダウンで男性の育休を推進するような仕組みを作ることもまた重要です。
まとめ
子どもが生まれたその日から、男性も子育て参画する。それによって、最初から子育ては自分の仕事だ、と意識にインストールされ、その後も継続して家事育児に携わるようになる。
そう考えると、男性の産・育休は、男性の家庭参画を推し進める鍵になります。
そして、男性の家庭参画は、女性の社会参画と対をなす、コインの裏表です。企業の長時間労働是正策を進めつつ、男性の超短時間家事・育児の対策も求められているのです。
編集部より:この記事は、認定NPO法人フローレンス代表理事、駒崎弘樹氏のブログ 2017年5月2日の投稿を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は駒崎弘樹BLOGをご覧ください。