7日の投票を棄権しようと呼びかけるグループも出てきた一方、マクロン氏陣営からは「極右派大統領の危険」を訴える声が高まってきた。それに対し、「マクロン氏はわれわれ労働者の代表ではなく、超エリートの代表に過ぎない」といったルペン派の反発も出ている。

5月1日のメーデーの日、マクロン派とルペン派両陣営の激しい衝突もみられるなど、選挙戦はいよいよ佳境を迎えてきた。3日には2候補者間の最後の討論番組が行われる。その行方次第で選挙の流れが変わる可能性すら囁かれてきた。なぜならば、有権者(4700万人)のかなりが投票する候補者をまだ決めていないからだ。

浮動票といえば、フランスの主要宗派、カトリック教会もまだ支持候補者を決めていない。2002年の大統領決選投票は、ジャック・シラク大統領とルペン氏の父親ジャン=マリー・ルペン氏との間の戦いだった。カトリック教会はルペン氏が危険な候補者だとはっきりと表明し、シラク氏を支援した。そしてシラク氏は約82%の得票を獲得して圧勝した。

しかし、今回はカトリック教会はマクロン氏を支持するとは表明していない。教会側は「国民(有権者)は成熟している。自身で候補者を決めることができる」と説明するが、実際はどちらの候補者を支持すべきか、選択に苦しんでいるのだ。

教会の苦渋の直接の原因は共和党候補者のフランソワ・フィヨン元首相(63)が敗北し、決選投票に進出できなかったことだ。フィヨン氏が決選投票に進出していたならば、教会は同氏を支持していただろう。

バチカン放送独語電子版(1日)は仏カトリック教会が決選投票で誰を支持すべきか悩んでいるという。記事のタイトルは「カトリック信者の声(票)はどこに?」だ。ちなみに、フランス国民の約70%はカトリック信者だ。

パリ大司教のアンドレ・ヴァン・トロア枢機卿(Andre Vingt-Trois)は「フランスは大きな国だ。国民は自身の良心の声に従って投票するから、懸念していない」と、ラジオ「ノートルダム」とのインタビューで答えている。

教会は第1回投票では司教会議の声明を公表し、国民に投票を呼び掛けるとともに、「欧州、貧者、生命の尊重に努力する候補者を選ぶように」と求めている。この声明文を読む限りでは、欧州連合(EU)を批判し、その離脱すら辞さない政策を主張するルペン氏への警告と受け取れる。特に、難民・移民政策ではマクロン氏の主張を支援しているとみて間違いないだろう。

ただし、カトリック信者の中には、マクロン氏が生命の尊重(中絶禁止)などの社会問題にあまり関心を寄せていないことに危険を感じている人もいる。

トロア枢機卿は、「マクロン氏は無党派だが、政党なくして民主主義を実現できると考えるのは幻想に過ぎない」とはっきりと疑問を呈している。6月の国民議会選でマクロン氏は果たしてどれだけの支援を議会から受けることが出来るか、といった問いかけだ。

同枢機卿はまた、マクロン氏を神が準備した救い主、メシアだと考えることに警戒心を表明している。「対抗候補者(ルペン氏)が悪魔のように批判されている時だけに、マクロン氏をメシアのように受け取ることは危険だ」という。枢機卿は、「候補者の政策をよく読み、顔や表情などに惑わされてはならない」と強調する。同枢機卿にとって、マクロン氏は少なくともメシアではないのだ。

仏カトリック教会はフランス革命以来、「国家と教会」の分離原則(政教分離、ライシテ)に基づき、現代人が直面しているさまざまな社会問題、中絶問題などで論争することに消極的で、サロン的な雰囲気で国民から尊敬を得ることだけに腐心してきた経緯がある。だから、若い信者からは「教会は社会問題、政治問題についても躊躇せず、もっと意見を述べるべきだ。社会が直面している諸問題の責任の一部は教会にある」と指摘する声が聞かれるほどだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年5月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。