長期金利が1日半も値がつかず、日本の国債市場は大丈夫か

5月1日の日本の債券市場はまれに見る閑散相場となった。ベンチマートともいえる大阪取引所に上場している長期国債先物(債券先物)は、日中(ナイトセッション除く)で1.3兆円弱と、少ないながらも極端に少ないわけではなかった。しかし、問題は現物債であった。

日本の長期金利は10年国債の新発債の利回りとなっている。債券市場での現物債の取引は店頭取引と呼ばれる相対取引となっている。このため投資家と業者がいくらでどれだけ売買したのかは当事者以外にはわからない(当然ながら守秘義務も発生する)。このため現物債の動きをみるために使われているのが主に日本相互証券(BB)での売買となる。

日本相互証券とは証券会社が出資をして証券会社同士の国債を主体とした債券の売買をするために設立されたものである。ここは業者と呼ばれる証券会社などが自分のポジションの調整のために売買を行う。取引相手はわからないようにしながら、BBの専用画面で株式市場のような板を見る事ができる。もちろん商いの動向も端末を持っていれば把握できる。

この日本相互証券会社での10年国債の新発債(カレント物とも呼ばれる)で出合った利回りが、現物債の利回りとして市場で把握されることとなる。つまり日本の「長期金利」とは、日本相互証券会社で出合った10年国債の新発債の利回りとなっている。

そのBBでの10年カレントが5月1日にまったく出合いがなかったのである。しかも2日の前場も出合いなく、日本の長期金利は1日半も値がつかない状態となっていた。ただし、1日出合いなしというのは初めてのケースではない。5月2日の日経新聞の記事によると異次元緩和導入でみると、これまで計4回発生している。

ただし、1日は10年債のカレントの売買がなかっただけでなく、2年、5年、20年、30年、40年のカレントが先物の大引けとなる15時までに一本しか値がついていなかった。しかも、15時現在で、2年カレントが10億円だけ、5年カレントは20億円だけ、10年カレントは出合いなく、20年カレントは10億円だけ、30年カレントと40年カレントはそれぞれ5億円しか出合っていなかった。これはまさに異様に少ないと言わざるを得ない。

債券市場が冬眠状態となってしまった要因としては、5月1日は大型連休の狭間にあたったためということがある。また2日からのFOMC、5日の米用統計発表、7日のフランス大統領選挙の決選投票を控えて動きづらかった面もある。

しかし、そもそも日銀が異常な額の国債を市場から買い上げている上に、イールドカーブコントロール政策まで取り入れて、市場機能が失われつつあることが大きく影響していよう。日銀は物価目標を達成するまでこの異常ともいえる政策を続けるようであるが、それはつまり今後さらに債券市場の機能が失われる懸念は強まる。日銀の国債買入額は2017年度が前年度よりも国債発行額が減少することもあって、少しずつ減らしてはいるものの(ステルステーパリング)、それでも大量の国債買入が続いているのも確かである。

日本の国債市場は発行残高が膨大であることもあり、米国に次ぐ大きさとなっている。その機能が失われつつあるということは、経済や物価の動向を映す鏡が曇ってしまうだけでなく、人的資源の損失にも繋がりかねない。市場参加者そのものが減少するだけでなく、ファンダメンタルズなどに即して長期金利が動くことを経験する機会も失われることになる。果たしてこれで本当に良いのであろうか。


編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2017年5月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。