北朝鮮北東部・豊渓里にある核実験場周辺でバレーボールに興じる人々の様子が米国衛星の写真に写っていたという。米ジョンズ・ホプキンズ大学の北朝鮮分析サイトは2日、「北の朝鮮人民軍創建85年の記念日(4月25日)、核実験場でバレーボールする姿が撮影された」と発表した。核実験場でバレーボールをする人々の姿が撮影されたのは先月だけで2回目だ。
そのニュースを聞いた時、駐オーストリアの北朝鮮大使館(金光燮大使)の裏庭でバレーボールを楽しむ北外交官やその子供たちの姿をすぐに思い出した。ウィ―ンの北朝鮮大使館の裏庭はバレーボールをするだけの十分な広さがある。バレーボールのネットが常設されている。だから、北外交官家族やウィ―ン留学中の北の音楽学生たちが週末、バレーボールを楽しむ。当方は大使館の外壁越しからバレーボールを楽しむ外交官の姿を追ったものだ。
ところで、「なぜ彼らはバレーボールをし、バスケットボールではないのか」という素朴な疑問が突然浮かんできた。唐突だが、それなりの理由がある。
国際オリンピック委員会(IOC)のメンバー、北の張雄氏は2メートルを超える長身だ。彼は北の有名なバスケットボール選手だった。張氏がウィ―ンに本部を置く「国際テコンドー連盟」(ITF)会長時代、数回、会見したことがある。北ではバスケットボール選手は英雄だ。
それだけではない。北の最高指導者、金正恩氏が米バスケットボールの大ファンであることは良く知られている。金正恩第一書記(当時)は2013年3月と9月の2回、米プロバスケットボールNBAの元スター選手デニス・ロッドマン氏を平壌に招いている。ロッドマン氏が平壌を初訪問した時、金正恩氏はロッドマン氏と一緒にバスケット試合を観戦し、抱き合って大喜びだった。北の国営放送はバスケットボールの試合を放送した。正恩氏は念願のスターに会えて有頂天だった。
そこでテーマに戻る。核実験場周辺で首領様の金正恩氏が大好きなバスケットボールではなく、バレーボールをする人々が撮影されたという理由を考えた。
①核実験場周辺にバスケットボールをするだけの敷地がなかったので、ネットだけで簡単にプレイできるバレーを選んだ、サッカーをしなかった理由も同じだ。
②本当はバレーボールでもバスケットボールでもどちらでもよかった。目的は米商業衛星が撮影してくれることだけが狙いだった。舞台装置の書割に拘る理由はなかった。
③バレーボールでなければならなかった。バスケットボールが大好きな金正恩氏が核実験場周辺でバスケットボールをする人々を見れば、必ず助言を言い出す。ひょっとしたら、核実験施設周辺に米国と同じ室内バスケットボール場を建設せよと言いだすかもしれない。そこで賢明な側近はマイナースポーツのバレーボールを選んだ。
海外駐在北外交官だけではなく、核実験施設関係者もバレーボールに興じるという事実は当方にはとても興味深い。蛇足だが、バレーボール北女子代表は1972年のミュンヘン夏季五輪大会で銅メダルに輝いている。男子代表より実績では女子代表が上だ。
ちなみに、バレーボールのボールよりバスケットボールが数段値段が高く、普通の国民はボールを買うことはできない。だから、バスケットボールをもって遊ぶ北の子供たちを見ることはほとんどない(「アルバニア青年と北のバスケ少年」2013年9月10日参考)。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年5月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。