超低金利をインフラ投資に生かせ
設立以来、日本人の総裁が9人も続いているアジア開発銀行(ADB)の総会が日本で10年ぶりに開かれました。中国主導で設立したばかりのアジアインフラ投資銀行(AIIB)に、日本は強いライバル意識を持っています。加盟国数はAIIBが設立後、2年で70、50年のADBが67で、すでに追い越されています。
「中国は経済、政治的な影響力を拡大する場にしようとしている」、「融資基準が恣意的で、中国の意向に振り回される」など、加盟を拒否している日米は警戒しています。アジアには、空港、港湾、鉄道、エネルギーなどのインフラを整備するため巨額の資金需要があるのに、日米系は資金不足なので、中国系の膨張をけん制しています。
ここで思うには、日米欧は超金融緩和を続け、短期資金はふんだんに余っているのです。中でも、アベノミクスの掛け声で、異次元金融緩和をしている日本のカネ余りは顕著です。それなら、アジアのインフラ整備にカネを回せたらと、思っても、過剰になっている短期資金が、インフラ整備のための長期資金として流れていかないのです。
国際資金市場のいびつな姿
極端に過剰になっている短期資金と、不足するインフラ整備の長期資金という巨大な不均衡です。国際マネー市場のいびつな姿です。緩和マネーが行き場を見失っている一方、インフラ整備にぜひ資金が欲しいという途上国のミスマッチです。
短期資金は目先の利益を追って動き、株式、土地、資源市場などで、一儲けする機会を狙っています。途上国のインフラ資金は、カントリーリスクがあるほか、長期融資に伴うリスクもあります。プロジェクトの採算、運営にも信頼をおけず、資金の回収に不安がある、資金計画が弱いというのも事実でしょう。
麻生財務相が「日本は4000万㌦をADBの新基金に出資する」ことを明らかにしました。4000万㌦は、日本円で約40億円です。日銀が異次元緩和のために、毎月、国債を80億円、買っています。その半分にすぎません。日銀が買った国債の総額は400兆円で、市場に巨額のマネーが供給されています。
ついでに言うと、アジアにおけるインフラ整備のための資金需要は、年1.7兆㌦です。世界の軍事費は年間で、1兆6800億㌦です。ほぼ等しい金額です。軍事費は自国の防衛のための予算ですから、簡単に減らすわけにせよ、敵対国が軍事を力を増強すれば、対抗上、軍拡をするという悪循環にはまっていることは確かです。武器輸出が多額の国は、米英仏、中ロなどが上位に並びます。これらの国は武器輸出で潤います。一方、購入する途上国、紛争当事国は出費がかさみます。
先進国の政府はもっと、国際機関に資金拠出したらどうでしょう。「社会保障費や景気対策のために、カネがかかる。自国のインフラも老朽化している。財政赤字は増える一方なので、途上国支援にカネを簡単に回せない」という反論です。そうした中で、中央銀行はふんだんに市場に資金を供給(金融緩和)しているのです。途上国経済が発展しなければ、国際情勢の不安を招き、そのつけが日米欧に結局は、回ってくるのです。
開発資金と短期資金を結ぶ道
金融、証券アナリストは、連日、マネー市場の動きを追っています。日本でアジア開銀の総会が開かれ、かれらもこうした巨大な不均衡に注意を払っているのかと思いましたら、そうではないのですね。インフラ整備は開発経済学の範疇であり、自分らが取り組んでいるのは短期の株、債券、為替の動きと切り分けているのです。
ある著名な金融アナリストのサイトを拝見しました。「マクロン勝利(仏大統領選)で市場は一安心」、「マーケットの新たなリスクは米中北(朝鮮)」「異常な金融政策が異常に見えなくなる怖さ」などがテーマになっていました。金融証券の専門家なのですから、短期過剰と長期不足の橋渡しをどうするかの考え方を示してもらいたいのです。
日本では、超低金利、ゼロ金利によって、一流企業は長期資金を1%以下で調達しています。20年、30年という長期国債も利回りは1%以下です。インフラ整備という長期資金を調達するいい機会だと思うのです。目先の動きばかりなく、どうしたらそれができるのか、専門家ならではの提案が待たれます。
編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2017年5月11日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。