河北新報が5月3日に「全世帯に災害一斉放送 宮城・色麻の事業破綻」と報道した。宮城県色麻町が、町内の全約2000世帯に災害情報などを一斉放送するデジタル無線網を構築してきたが、300世帯程度にしか届かず事業中止を決断したそうだ。震災復興関連の補助金など総額約3億7000万円が無駄になった。
色麻町にデジタル無線網の免許が交付されたのは2012年7月である。居住地域のほぼ全域に地域WiMAXを整備し、行政情報や災害情報などの情報提供を行うことになった。2013年5月には開局式が実施され、町長は「町民へ防災情報や災害情報を提供する情報伝達手段が確保され、安心・安全な街づくりを一歩進めることができた。」と挨拶した。総務省の二つの報道発表からは事業成功としか読み取れない。
しかし、実際には受信できる世帯はごくわずかだった。「議会だより」を遡ると、この問題が繰り返し町議会で議論されてきたことがわかる。開通式当時の町長は引退し、2015年に初当選した現町長の答弁はいつも同じである。「町は専門知識を持っていないので業者の提案を信じた。」「検査に合格したので支払いを済ませ工事は完了している。」
ほとんどの世帯で受信できないのに検査に合格したことになっているのは驚きだ。色麻町の「地域防災計画(2014年策定)」では地域WiMAXが住民への情報伝達に重要な役割を担うことになっていた。これも絵に描いた餅になった。
ところで、地域WiMAXとは何か。これは2.4GHz帯を利用した無線通信システムで、Wireless City PlanningとUQコミュニケーションズが全国規模でサービスを提供している。両者の間の周波数2575MHzから2595MHzが地域WiMAXに割り当てられ、北海道では2地域、東海では8地域というように、地域事業者によって地域ごとにサービスが提供されている。
しかし加入者数は伸びず、かねてより電波の無駄遣いとの指摘が出ていた。総務省もしびれを切らして「利用状況について定期的に確認・公表」することにしている。
地域WiMAXを廃止し、全国事業者に委ねたほうが電波の利用効率は上がる。それでも地域の名前にこだわりたいのであれば、全国事業者の下でMVNOを営めばよい。スマートフォンに防災情報が一斉送信されてくるように、特定の地域の住民に限って特別の情報を一斉送信するのも簡単なことだ。
人々は場所を問わずにスマートフォンや無線LAN、それにWiMAXなどの無線通信を利用している。そんな時代に、地域を限ってサービスを提供しようという地域WiMAXは発想が悪い。