先般、免許の更新手続に行ってきました。運悪く、有効期間中に違反を二度摘発されたので、二時間講習を受講しました。
余談ながら「運悪く」は強調しすぎてもし過ぎることはありません。全く危険性がなく、弁護士である私自身ですら違反と知らなかった行為を「待ち伏せ」で摘発されたのですから…。
私憤はさておき(汗)講習を受けて驚いたのは、100人以上の受講者の中で「自転車保険」に加入していたのが(私を含めて)たったの2人だけだったという事実です。
あえて挙手を控えた人がいたということではないでしょう。熟練した講師の講習進行に伴い、みんながきちんと挙手の意思表示ができるようになってからの最後の質問でしたから。
歩道を猛スピードで走っている自転車を見るにつけ、「危ないなあ」と感じることが頻繁にあります。
自転車は原則として車道を走らなければならず、歩道を走れるのは例外的な場合だけです。ですから歩道で誰かにぶつかって大怪我を負わせたら、運転者の過失割合がほとんどなので巨額な賠償請求を受ける怖れがあります。
「死ぬことはないだろう」と思うかもしれませんが、高度障害が残った場合は「死亡」より賠償額が高くなることがあるのです。なぜなら、逸失利益の計算に当って生活費が控除されないからです。
交通事故等で死亡した場合の逸失利益の計算式は以下の通りです。
年収(基礎年収)×(1−生活費控除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数(中間利息を控除するための係数)
年収500万円の40歳の男性であれば、原則として就労可能年齢が67歳ですから以下のようになります。
500万円×(1−生活費控除率)×14.643(残り27年分から中間利息を控除した係数)
ここで問題となるのが生活費控除率です。
一般的には次のように定められています。①一家の支柱(被扶養者一人)40% ②一家の支柱(被扶養者二人以上)30% ③女性(主婦、独身、幼児を含む)30% ④男性(独身、幼児を含む)50%
男女差別はさておいて、独身男性の場合は50%の生活費控除率が適用されるので、先の計算の(1−生活費控除率)は(1− 50)になります。
それに対し、労働能力喪失率100%の後遺障害が認定されると、生活費控除率は適用されず(1−50)ではなく1のままです。
生活費控除率というのは、その人が生きていたら生活費として使ったであろう分を収入から差し引くものなのです。後遺障害を受けて生活する人から生活費相当分を控除できないのは当然のことです。
つまり、同じ40歳独身男性の場合、この例だと高度障害の方が死亡の2倍の逸失利益が認められるのです。30歳で1000万円とすれば、その差はますます開きます。
実際、私が担当した交通事故訴訟で最も高額だったのは20代の男性の後遺症等級1のケースでした。
正確な金額は忘れましたが2億円弱だったと記憶しています。死亡でもなかなか1億円いかないことが多いので、いかに高度障害の賠償額が高額かを再認識した覚えがあります。
自転車で歩行者に追突して被害者を「寝たきり」にしてしまったら、相手もさることながら運転者自身も大変なことになります。刑事罰も受けなければならないので、払いきれない巨額賠償を背負うことになれば人生終わりです。
自転車保険、是非とも加入して下さいね。あなた自身のためにも、社会全体のためにも。
編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2017年5月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。