ドイツ最大の人口(約1800万人)を有するノルトライン=ヴェストファーレン(NRW)州で14日、州議会選挙の投開票が実施された。独公営放送の暫定結果によると、「キリスト教民主同盟」(CDU)は約33%の得票を獲得し第1党に躍進した。2012年の前回選挙比で7ポイントの急増だった。それに対し、与党「社会民主党」(SPD)は約31・2%(前回比7ポイント減)に留まり、SPDと連立政権を組む「緑の党」も6.4%と大幅に得票率を落とした。逆に、野党の中道リベラル「自由党」は12・6%で第3党に躍り出た。その他、新党の右派政党「ドイツのための選択肢」(AfD)は7・4%の得票率を得て議席を獲得した。
NRW州の社民党が得票を大きく失った主因として、貧困が広がり、失業者の増加、財政赤字の拡大、教育政策の遅れなどが挙げられている。NRWはその経済力でトルコを凌ぐが、ここにきて停滞してきている。また、難民・移民問題では犯罪の増加などが見られ、国民の不安に対処する州政府の政策が十分ではない、といった批判の声が聞かれた(例・2015年大晦日のケルン市中央駅周辺の集団婦女暴行事件)。
選挙の結果、社民党と「緑の党」から成る連立政権は崩壊。SPDのハンネローレ・クラフト首相(55)は同日夜、選挙の敗北を受け、辞任表明した。一方、アルミン・ラシェットCDU州党首(56)は第1党として新たに政権組閣に取り組む。
NRW州議会選は単なる州議会選ではなく、9月24日実施予定の連邦議会選の予備選と受け取られていた。特に、今年3月19日に社民党党首に就任したシュルツ党首は、ザールランド州(3月26日)、そしてシュレスヴィヒ・ホルシュタイン州の州選挙(5月7日)で連敗した直後だっただけに、自身の出身州であり、“赤の砦”であるNRW州(州都デュッセルドルフ)選挙で勝利し、党に勢いを回復させたいところだった。しかし、シュルツSPDは3戦3敗となり、9月24日の連邦議会選へ向け最悪のスタートを切った。
SPDは3月19日、ベルリンで臨時党大会を開き、前欧州議会議長のシュルツ氏(61)を全党員の支持(有効投票数605票)でガブリエル党首の後任に選出し、CDUのメルケル首相の4選阻止を目標に再出発したばかりだ。欧州議会議長からドイツ政界に乗り込んできたシュルツ新党首への期待(シュルツ効果)は大きかっただけに、3戦3敗は党に深刻な打撃を与えている。独メディアではシュルツ・エフェクト(効果)に代わって、シュルツ・デフェクト(欠陥)という皮肉った報道もでてきた。
シュルツ党首は14日夜、「州議会選挙はあくまでも州議会選だ。連邦議会選とは異なる」と弁明したが、9月の連邦議会選に向けて党の選挙体制と戦略の見直しが避けられなくなった。
当方の私見だが、社民党は3月の臨時党大会でシュルツ氏を全員支持で新党首に選出したが、一人でもシュルツ氏の党首選出に反対していたならば、社民党は救われたのではないだろうか。
全員が支持した場合、その結果が悪ければ全員が責任を負い、最悪の場合、共倒れとなるが、1人か2人の党員が反対していたならば、その反対した党員故に社民党は共倒れから救われることになるからだ。
シュルツ党首は100%の党員の支持という十字架を背負いながら、9月の連邦議会選に立ち向かっていかなければならないのだ(「シュルツ氏選出と『ユダヤ人の知恵』」2017年3月23日参考)。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年5月16日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。