【映画評】パーソナル・ショッパー

渡 まち子

パリで、多忙なセレブのために、服やアクセサリーの買い物を代行するパーソナル・ショッパーとして働くアメリカ人のモウリーンは、数ヶ月前に双子の兄を亡くし、悲しみから立ち直れずにいた。ある時、モウリーンの携帯電話に正体不明の人物から奇妙なメッセージが届き、その人物に誘導されるかのように、依頼主の服を身に着けるというタブーを犯してしまう。同時に彼女の周囲で不可解な出来事が次々に起こり、ついにモウリーンはある事件に巻き込まれる…。

セレブの買い物を代行する女性が、謎めいた事件に巻き込まれるミステリー「パーソナル・ショッパー」。オリヴィエ・アサイヤス監督と主演のクリステン・スチュワートのタッグは「アクトレス~女たちの舞台~」に次いで二度目だ。ハリウッド映画とは全然違う顔をみせるスチュワートは、今回もまたセレブの秘書的な地味な役。ただ「アクトレス」と大きく異なるのは、ヒロインが霊能者というスピリチュアルな設定であることだ。モウリーンは、兄の死から立ち直れず、彼が住んでいたパリを離れないのは、生前二人が、先に死んだ方がサインを送ると誓いあっていたから。モウリーンの携帯に次々に届く謎めいたメッセージの送り主は、誰なのか。もしや死後の世界からのものなのか。…と、ミステリーからオカルトへと傾くかに思えたが、終わってみれば、そのどちらでもなかった。

依頼主の高価なドレスを身に着けるというタブーは、今より豊かな、別人になりたいというモウリーンの心の欲望だが、物質主義を単純に否定しているわけではない。霊能力があるが、それが事件の解決を助けるわけでも、スピリチュアルな世界を肯定するわけでもない。共に個性的な設定なのに、活かしきれてない印象なのが残念だ。だが、深い孤独と喪失感を抱えたヒロインが、自己を解放する物語としてみれば、なかなか興味深い。雇い主とはほとんど電話で話すだけ。遠いアラビア半島にいる恋人とのやりとりはPCの画面を通して。謎の人物とのミステリアスな会話は携帯のメッセージ。ヒロインはいつも、そこにいない人物と共に生きていた。それは、現世にいない死者を感じる霊能と重なって見える。ファッショナブルかつ不思議なテイストの心理劇だが、別人になりたいと心の奥底で願ったヒロインが、結果的に、アイデンティティーを取り戻すストーリーは、示唆に富んでいて悪くない。
【65点】
(原題「PERSONAL SHOPPER」)
(フランス/オリヴィエ・アサイヤス監督/クリステン・スチュワート、ラース・アイディンガー、シグリッド・ブアジズ、他)
(スピリチュアル度:★★★☆☆)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2017年5月16日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。