がんに対する免疫力を高める新規抗体治療薬;抗CD27抗体

中村 祐輔

また、また、オヘア空港にいる。21日の日曜日に日経ホールで開催される乳がん懇談会に参加するためだ。会は、12時30分に始まり、私の講演は14時過ぎから始まる予定だ。

今回の講演会は、よしもとブレストクリニックの吉本賢隆先生が企画されたものだ。吉本先生には、私が癌研究所に勤務していた時からお世話になったし、がんペプチドワクチンの臨床研究でも協力していただいた。また、私の知人も乳がん治療でお世話になっている。一宿一飯の恩義というか、長い知り合いなので、喜んで今回の企画に協力させていただくことになった。私の講演のタイトルは「がんの延命治療から、がんの治癒を目指した治療への潮流」だ。50分の時間を頂いたので、がんの治癒に向かっての動きをわかりやすく説明し、患者さんに希望を提供できればと思う。

今回の訪日も雑誌のインタビュー、シンガポールから偶然に来日している共同研究者との打ち合わせ、知人との会食など、予定はびっしりと詰まっている。また、免疫治療に関する研究費申請書などを仕上げなくてはならず、結構大変だ。その免疫療法で、新しい抗体治療薬の第1相試験の結果が「Journal of Clinical Oncology」の5月16日号に発表されていた。標的とする分子はCD27分子であり、腫瘍壊死因子受容体ファミリーに属する細胞膜に存在するタンパク質だ。Varlilumabと名付けられた抗CD27抗体は、詳細は省くが、T細胞やB細胞を活性化する働きがある。

論文では25名に投与され、安全性が確認されたこと、18名が3か月以上腫瘍の増殖が抑えられたこと(1名は3.9年以上)、1名(腎がん)で顕著な腫瘍縮小が認められたと述べられていた。また、腫瘍特異的抗原5種類に対する免疫反応性も調べられ、一部の患者では、活性化が観察されている。調べている抗原の数も限られているし、変異抗原(ネオアンチゲン)に対する免疫反応は検討されていないので、情報は限定的だ。しかし、薬剤の量を増やして安全性を調べていく試験のため、一部の患者さんでは十分な量が投与されていないにも関わらず、この結果は有望だ。

これまでの免疫チックポイント抗体(抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体、抗CTLA-4抗体)は、がんに対する免疫を抑えている物質を抑えて、相対的にがんを攻撃する免疫を高めるものであったが、この抗体は、がんを攻撃する細胞を直接活性化する働きがあるので、これまでの抗体と組み合わせると相乗効果があるかもしれない。ただし、これらの抗体医薬は、がん細胞に対する免疫力を特異的に活性化するのではなく、患者さんの免疫力を非特異的に高めるので、組み合わせると副作用のリスクも高める可能性がある。いずれにせよ、がん患者さん自身が持つ免疫力を高めることはがん治療にとって非常に重要だ。

日本には、詐欺師も多いが、免疫学的分野の基礎研究力は極めて高い。もっと、基礎研究者と臨床医がしっかりと体制を構築して取り組めないものか?と、いつもながら考えさせられる。


編集部より:この記事は、シカゴ大学医学部内科教授・外科教授、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のシカゴ便り」2017年5月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。