政界の情報戦のスピードは恐ろしいほどに速い。きのう(5月22日)安倍政権が対峙する「3大情報戦」を展望した記事を投稿した直後から、大きな動きがあった。そして、3大情報戦のうち、2大戦線においては、拙稿で予測した通りの流れになりつつある。
読売報道の特異性にネット騒然
まずは昨日朝、加計学園問題で注目の文科省。きのうの拙稿ではこう書いていた(下線部は本稿で追記)。
常識的に考えても、文書の出所は、安倍政権に恨みを持つ人間の可能性が高い。すでに私も耳にはしているが、先ごろの文科省の不祥事に関連したところに脚光が移っていく予感がしている。
そして、その矢先だった。再就職あっせん問題で引責辞任した文科省の前次官のスキャンダルを巡る読売新聞の特異な報道があった。
「特異」というのは、新聞報道で通常報じられる類の露出ではない点だ。公務員の不祥事、犯罪の類を、新聞がスクープする場合、通常は、捜査当局の立件や、所属先の公的機関の内部調査の動きを掴んだり、リークされたりして「事件化」に合わせて書くことが通例だ。しかし、そうした動きがない段階での新聞報道…実に「週刊誌的」というのがメディア関係者を驚かせた。
前川氏はすでに退官しており、文科省が現在進行形で内部調査をしているとは考えにくい。そもそも、繁華街での行動を逐一確認するだけの調査能力を同省が有しているわけもない。
そうなると、読売報道の情報源の「関係者」は誰か。前川氏のプライベートの行動確認をできる公的機関は限られる。すでに私の周囲で、ジャーナリストなどからは、警察関係、特に内調(内閣情報調査室)の暗躍を指摘する意見も出ている。そうした指摘をする人たちは、いわゆる反権力志向のリベラル系とは限らず、割と保守的な人たちからも、「やり過ぎではないか」という懸念も聞こえてくる。
そのことの是非には今回は立ち入らないが、一つだけこの報道で感じた「時代性」を付言しておくと、きのうLINEの田端信太郎氏が私にツイートしたように、「良くも悪くも新聞報道と週刊誌報道の境目がなくなっている」傾向を感じさせた。田端氏へのレスでも書いたが、ネットメディアの台頭と、ネットニュースに力を入れる新聞社や週刊誌が増えてきていることも相まって、ある種の不文律的な媒体間の住み分けがなくなっている点も見逃せない。
内調の関与が指摘されるように、官邸がどこまで動いているのかはわからないが、それでも情報戦で何か仕掛けてくるのではないかと、政敵やメディア関係者に思わせる効果は十二分にある読売報道であったことには間違いない。
大西議員の「自爆」で小池陣営の笑いが止まらない!?
そして午後になってからは、官邸の「対小池」戦線で異常が発生した。
前日、私は次のように書いていた(下線部は本稿で追記)。
いわゆる「受動喫煙問題」では、都連所属の国会議員が、三原じゅん子参議院に暴言を吐いたという情報が駆け巡っており、リアルの世論で炎上する可能性も強まっている。この種火を大火事にされてしまう、さらに都議選直前に突然豊洲市場移転を発表するなどの争点打ち消しを絶妙なタイミングで発表されてしまうと、2月の千代田区長選の時ほどではないにしろ、戦局の主導権を再び小池陣営に握り返されてしまう可能性は小さくない。
ここ数日、ハフィントンポストやバズフィードジャパン等の独立系リベラルメディアが問題発言の大西議員を追及。そして、政局取材に編集部員が緊急取材することが珍しい現代ビジネスまでも参戦するなど、メディア側の攻勢がどんどん加速していた。ついに大西議員は自民党本部で謝罪会見に追い込まれた。
夕方、民放ニュースでの速報を見ていたが、私がたまたま見ていた局では、大西議員が美味しそうに煙をふかしている様子を事前に撮影していた素材をオンエア。しかも、都議選の告示日まで1か月という節目を迎えるタイミングだけに、ニュース性も加わって、テレビ各局には格好の「画」となってしまった。
そのことの是非は別に、細かい事実関係はもう吹っ飛んでしまい、「小池劇場」の悪役面そのものの印象が視聴者に残ってしまうとしか思えなかった。ここのところ、退潮傾向にあって焦っていた小池陣営は、笑いが止まらないだろう。(ていうか、おときた都議はもうブログで書いているし…苦笑)
先日、ダイヤモンドオンラインの情報戦連載で窪田さんに先に書かれてしまったが、私は、受動喫煙問題が都議選のアジェンダにまで昇格するかは、まだ様子見だった。この間、おときた都議や駒崎さん、あるいは永江一石氏らがネットでこの問題を追及していたものの、テレビが食いつくほどの燃料が投下されるかどうか、半信半疑だったからだ。また、自民都連も争点打ち消しのために一定の対策を打ち出していたところだった。
しかし、大西議員の「自爆」で燃料となり、局面が大きく変わる可能性が出てきた。きのう私にツイートしてきた人の指摘した通りになりつつある。
ただでさえイメージ戦略が抜群な相手にオウンゴールしているのですから、手におえません。江戸川区から出る自民候補にはいい迷惑でしょうね。
都連が、非情の決断をできるかで趨勢が決まる
もし、自民党都連サイドが昨夏の都知事選に至るまでの経緯で教訓を生かすのであれば、セクハラヤジ問題の時のように後手に回らないようにすることだ。「世論ゲーム」のルールが変わった現実を直視せず、これまでにも再三舌禍事件を起こしている大西議員を庇い立てすれば、戦局は一気に相手に傾く。
当面の焦点は、下村都連会長が「泣いて馬謖を斬る」決断ができるかどうか、いや泣こうが泣くまいが、即座に危機対応できるのか都民は注視している。しかし、都連首脳部に自浄能力がないのであれば、党総裁たる安倍首相が直接介入するしかないだろう。特にこの問題は、他党の女性都議をヤジったケースと違い、保守層のファンも多い自党議員の三原じゅん子氏への侮辱的な言動だっただけに、中途半端な対応では、自民党支持層への示しが付くまい。現在も都内の自民支持層の小池人気は根強く、特に女性支持層の離反を招きかねない。
議員辞職させるくらいの対応をもしここで見せれば、小池陣営に主導権を渡さずに済む可能性があるが、はたして、どうなるのか。きょう(5月23日)で都議選告示までちょうど1か月だが、前哨戦となる世論ゲームは、すっかりヒートアップしている。
※アイキャッチ画像は引用したNHKニュースのツイッターより
※おしらせ:今週から始まる音声Vlog「#アゴラジオ」では、この「たばこ問題」も含め、ツイッターで時事問題への皆さんのご意見を大募集中。初回収録(本日5月23日14時過ぎ)までに、ハッシュタグ「#アゴラジオ」でツイートしてください。