がん患者をサポートするマギーズ東京

中村 祐輔

マギーズ東京の共同代表を務める秋山正子さん(左)と、現役の日テレ記者でもある鈴木美穂さん(マギーズ東京Facebookより:編集部)

今、羽田にいる。短い滞在だったが、日曜日の講演会には刺激を受けた。自らの苦しかったがん体験から患者さんを支援するマギーズ東京を立ち上げた、鈴木美穂さん(日本テレビキャスター)の発想・行動力に心底から感動した。私の講演よりも、鈴木さんの話の方が、はるかに迫力があったし、会場に来られた方に勇気を与えたと思う。もっとゆっくり話を聞いてみたかった。日本の若い人たちは、元気がなく、行動力がないと常々愚痴をこぼしているが、彼女のパワーは素晴らしいと思う。 

マギーズ東京のホームページには、そのコンセプトを「造園家で造園史家でもあったマギー・K・ジェンクス氏は、乳がんが再発し「余命数ヶ月」と医師に告げられた時、強烈な衝撃を受けたといいます。にもかかわらず、次の患者がいるのでその場に座り続けることが許されませんでした。その時、がん患者のための空間がほしい。あと数ヶ月と告げられても生き続ける術はないかと、担当看護師のローラ・リー(現CEO=最高経営責任者)と必死に探したそうです。・・・・・・・がん患者や家族、医療者などがんに関わる人たちが、がんの種類やステージ、治療に関係なく、予約も必要なくいつでも利用することができます。マギーズセンターに訪れるだけで人は癒され、さまざまな専門的な支援が無料で受けられます。がんに悩む人は、そこで不安をやわらげるカウンセリングや栄養、運動の指導が受けられ、仕事や子育て、助成金や医療制度の活用についてなど生活についても相談することができます。のんびりお茶を飲んだり、本を読んだりするなど自分の好きなように過ごしていてもいいのです。マギーは、そこを第二の我が家と考えました」と記されている。(http://maggiestokyo.org/concept 

マギーズ東京サイトより(編集部)

マニュアル化した医療を淡々とこなす医師が増えてきた今、患者さんの心を支えるこのような活動は重要だし、もっと広げていってほしい。彼女の取材記者と言う立場をうまく活用した行動姿勢は、驚嘆に値する。本来ならば、医療関係者がしっかりと患者さんを受け止めるべきなのだが、今の医療現場では、燃え尽き症候群という医師の閉塞感・自信喪失が広がり、そのようなゆとりもない。医療供給体制が限界を超え、その弊害が患者さんに及んでいる状況だ。

標準化医療の旗印の下、患者さんに「あなたの5年生存率は70%です」と統計的な数字が無機質な言葉で伝えられる。70%という数字に安堵を覚える人はあまりいないだろう。30%の患者さんが再発して亡くなるという現実に、自分がその30%に入るのではという不安が広がり、その不安は30%の不安ではなく、100%だ。

がんと診断されても、がんで亡くなる患者さんは半分を下回るようになったものの、がんは死の病、再発するとダメとの思いが頭から離れない場合が多い。

ましてや、再発・余命という言葉を、患者さんの顔も見ずに伝える医師は、患者さんの気持ちに忖度することなどできるはずもない。マギーズ東京だけに終わらず、もっともっと患者さんを支える活動が広がって欲しいと願っている。講演会後に、鈴木さんから「イリノイ州に住んだことがある」とお聞きして、さらに応援したい気持ちが膨らんだ。 

PS:「がん患者は働かなくていい」発言で、一昨日、このブログでも批判した議員が「もっと健康的な受動喫煙のない職場で働けばいい」という趣旨だと釈明していた。この発言は、火に油を注ぐような言い草だ。がん患者さんが安心して働く職場を提供する国会議員としての職務をどう考えているのか疑問だ。そして、このコメントは、「受動喫煙のない職場がもっと健康的だ」と考えているように受け止めることができる。それなら、なぜ、飲食店での全面的な禁煙に賛成しないのか?支離滅裂だ!


編集部より:この記事は、シカゴ大学医学部内科教授・外科教授、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のシカゴ便り」2017年5月23日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。