ベンチャー育成と「大企業偏重」という表現

日本経済新聞に5月15日に掲載された「名ばかり研究大国ニッポン 目先主義、革新生まず 大企業偏重で効率低く」を読んだ。川手伊織記者はもっともなことも言っているのだが、全体としては違和感を覚えた。1週間が過ぎてやっと気づいた。川手記者の「大企業偏重」という表現がおかしいのだ。

記事は次のような内容だった。第4次産業革命が進み企業の研究開発投資の重要性が一段と高まっている。我が国の研究開発投資総額は多いが、投資額に対して利益を生み出す「生産性」は格段に低い。その原因は投資の多くを担う大企業が既存技術の改良に開発費を振り向けているからだ。安倍政権が掲げるベンチャー育成は処方箋の一つである。労働市場の流動性も高める必要がある。

川手記者は「大企業に過度に投資が偏っている点が莫大な利益を生むイノベーションを阻む要因の一つだ。」という。改良開発に自らの資金を投じると経営者が判断し株主が支持している限り、いくら偏りと言っても流れは止まらない。だれにも止める権利はない。一方で、「三菱重工業、日立製作所グループなど日本の伝統的な大企業が取り組み始めているのが、創業以来の自前主義の脱却だ。」と紹介しているが、この部分には大企業への期待さえ感じられ、その先には偏り続ける未来が透けて見える。しかし、自前主義からの脱却など欧米では1990年代からの経営戦略である。

「大企業偏重」が誤りというのであれば、古い経営に留まる大企業は見放したらよい。国策としてベンチャー育成に全力を挙げるように主張しよう。

シェアリングエコノミーなどに関連する過剰な規制を緩和すること、労働市場における硬直的な規制を撤廃して流動性を高めることなど、政府ができる、あるいは政府しかできない施策は数多くある。そもそも、法務局・税務署・年金事務所などへの手続きだけで疲労困憊してしまう創業者がいることも改善課題である。

ベンチャー企業へのリスクマネーの供給を促進する方向での資本市場の整備、特許出願から取得までの期間短縮などは、行政事業レビューで議論されたこともあり、すでに改善点になっている。政府からの研究開発助成は、この際、大企業には回さないと決めてもよい。

大企業への依存から脱却する産業政策として政府に期待することは数多くある。