JASRAC問題はコンテンツ業界が稼ぐためのチャンス --- 方喰 正彰

アゴラ

JASRAC問題を、コンテンツビジネスの「稼ぐ」ための視点から見直すと?(写真AC:編集部)

5月に入ってから著作権をめぐる問題が世間を賑わせている。

代表的なものとして1つは「音楽教室の著作権使用料を巡る問題」であり、もう1つは「京都大学の総長式辞歌詞印税を巡る問題」であり、2つの“事件”に共通しているのは、権利の範囲と教育等における非営利性に関する点である。

営利性を追求すれば、権利の使用がある以上は相当な対価を支払うことが当然であり、一方で、非営利性を追求すれば無償使用が認められるべきという主張で双方は対立する。著作権と教育においては次のような特例があり、今回もそれらが問題に関係している。

著作権法22条
「著作者は、その著作物を、公衆に直接見せ又は聞かせることを目的として(以下「公に」という。)上演し、又は演奏する権利を専有する。」

学校における例外措置(主なもの)
・教員及び児童・生徒が、綬業の教事守として使うために他人の作品をコピーし配布する場合(第35条 第1項)
・学芸会、文化祭、部活動などで他人の作品を上演・演奏・上映・口述 (朗読等)する場合(第38条 第1項)

正当性と厳格性をもって事務的な処理を行う権利者側(今回の場合、音楽著作権の管理委任を受けているJASRAC)と、あいまいな線引きと暗黙の了解で事なかれ主義に話を着地させたい非権利者との主張はかみ合うことがないだろう。繰り返されるこのような権利問題から日本のコンテンツビジネス負け組の要因が見えてくるのではないだろうか。

私は、今回の事件が報道されてから、その背景に「日本のコンテンツビジネスが構造的不況を抜け出せない理由」が見え隠れしているのではないかという疑問を感じた。

攻めと守りをバランスよく

今回の事件に限らず、仔細を見ればJASRACの仕組みなどに改善すべき問題は多々あるが今回の件を契機として、日本におけるコンテンツビジネスの大改革を起こすチャンスにする議論へ発展させてはどうだろうか。

私はマンガやキャラクター、アニメに関係する仕事に携わることがあるが、「チーム日本」、「株式会社日本」の戦略的輸出品目としても注力されているクールジャパンのコンテンツにおいても今回の著作権をめぐる問題と同じような問題点が生じていると感じている。ある調査によれば日本コンテンツの売上の内、日本のコンテンツホルダの収入は、34%ほどと推計されている(注1)。

日本におけるコンテンツビジネスの失敗は、権利を守ることに固執しすぎることにあると感じている。
守ることに固執するがあまり、権利を有効活用できず、価値あるコンテンツを眠らせてしまっている。
そして最終的には、その金の卵を卵のまま持ち続けて、どうしようもなくなってきたところで海外に委ねてしまったり、権利を手放してしまう…ということではないだろうか。その結果が前述の収入割合34%という数字を生んでいるだろう。

国内で、業界内で試行錯誤して協力すれば良いものを、呉越同舟に耐えられず、「国内」と「国外」とで市場を切り離し「払い下げ」と思われるほどの対価で手放してしまうということには「落胆と失望という以外のなにものでもない」、そんな言葉が関係者から聞こえてくる。

クールジャパンの本丸、アニメ業界でも起きていた権利問題

世界で視聴されているアニメの6割が日本製、地域によっては8割のシェアを誇ると言われるにもかかわらず、日本のアニメ制作を取り巻く環境は芳しくない。芳しくないどころかもっともブラックな産業とさえ言われている。言い換えれば「稼ぐ力がない」という事になる。

たとえば2016年の日本の年間映画興行収入ランキングTOP10には2位、4位、5位と海外作品が入っている。一方で2016年の全米年間映画興行収入ランキングTOP50に日本の作品は1つもランキング入りできていない。アニメと実写という違いがあるにせよ15歳未満の人口が6000万人と日本の1617万人と比較して3.3倍もいる大国においてまったく稼ぐことができていないといえるのではないだろうか。

本題に戻ると、そんなコンテンツ輸出大国日本のアニメで稼いでいるのは日本の企業ではない。日本の権利者から権利を取得した海外の企業である。たとえば、アニメ番組のネット配信に関してはアメリカの企業に権利をゆだね、結果としてその企業が開発したサービスが日本に逆輸入され日本国内でできたであろうビジネスチャンスをみすみす逃してしまった、という過去がある。

なぜ、日本の企業が連携、提携して自社・自国のアニメを使って世界でビジネスをしないのか・・・正しく言えばできないのか、という問題と今回のJASRACを巡る問題には根幹を同じくするところがあると感じている。

その理由としては、「守る」ことはしても「積極的に攻める」ことはしない、できないという点だろう。

表向きには自国のコンテンツを世界に輸出しようとタッグを組むようにふるまいながら、水面下では手を組んでいない相手に塩を送るかのごとく各社が海外の事業者と提携して自社のコンテンツ輸出を進めているのである。横並びを好む体質が結果として自らの首を苦しめる状況を長らく作り出してきてしまったのだ。

今回のJASRAC問題を攻めに転じれば・・・

音楽教室から著作権料を徴収しても問題がないビジネスモデルへ転換する
    ↓
アーティストなどの権利者が正当な対価を受け取ることができるようになる
    ↓
新しい創作活動が活性化される

…という事が期待されるであろう。

また、歌詞の使用に関しても

教育の現場から著作権料を徴収しても問題がない仕組みを作る
    ↓
コンテンツに対する認識が変わる、アーティストなどに対する創作者への尊厳教育ができる
    ↓
著作権に関する教育、意識が変革される

…といったことが期待できるのではないだろうか。

権利を主張するだけでは経済は活性化されないし、権利者にも発明や権利の対価はもたらされない。
権利を適切に管理することによって経済はもちろん教育においても大きなメリットが生まれるのではないだろうか。そこに「日本のコンテンツ力を強化する」チャンスがあり、日本がコンテンツビジネスで「稼ぐ力」を見出していくヒントがあると思う。

批判するのではなく、「問題を解決するための行動」が、一刻も早く、日本のコンテンツ全体に求められているのではないだろうか。

(注1)総務省情報通信政策研究所「放送コンテンツの海外展開に関する現状分析」、ヒューマンメディア「日本と世界のメディア×コンテンツ 市場データベース」、A.T. カーニー分析

(参考資料一覧)
・文化庁長官官房著作権課「学校における教育活動と著作権」
みずほ産業調査 Vol.48
アニメーション制作者実態調査 報告書2015

方喰 正彰(かたばみ まさあき)
ビジネスコンサルタント、コンテンツプロデューサー。有限会社Imagination Creative 代表。アゴラ出版道場二期生

ブランディングを軸に、企業向けにはビジネスモデルづくりのコンサルティングや、コンテンツの力を生かした新規事業のプロデュース、個人向けにはパーソナルブランディングの構築というかたちで「まとめる」「つたえる」をテーマにサービスを提供している。近著に「マンガでわかるグーグルのマインドフルネス革命」(サンガ)