Make Our Plant Great Again

中村 祐輔

「Make Our Plant Great Again」と痛烈な皮肉の演説を見せたマクロン氏(フランス大統領府公式サイト:編集部)

トランプ大統領のパリ協定離脱宣言、解雇されたFBI元長官の議会での公聴会など、政治の話題が尽きない米国だ。G7や中国の首脳も、米国のパリ協定からの離脱を非難していたが、その中でも洒落た一言でトランプ大統領を皮肉っていたのが、フランスのマクロン新大統領だ。

「Make our planet great again」は自国の利益しか考えない米国大統領への痛烈な一言だ。米国は世界の警察官の立場を自ら放棄し、今は、ビジネスの損得を優先する国となった。米中会談後、にわかに北朝鮮への強硬姿勢を転換したが、何かデールが成立したのかと勘繰りたくなる。しかし、メディアを通して聞こえてくるトランプ大統領批判は、今でも支持率が40%近くある現実とは少し乖離しているようだ。

明後日のコミー元長官の話に多くの人が関心を持っている中、ASCO2017 (米国臨床腫瘍学会)会議は閉幕した。話題の中心は、AACR(米国癌学会)と同様、免疫療法とリキッドバイオプシーだ。免疫療法に関しては、昨年、一昨年の熱気は少し醒めたように見えた。免疫チェックポイント抗体の治験が800件も実施されているのだから、どの会場でも金太郎飴を切ったような感じの発表だった。

しかし、会場で話をした多くの医師が、子供を含む老若男女を問わず、がんの種類も問わず、マイクロサテライトマーカー検査で遺伝子が不安定と判定されたがんに対して、免疫チェックポイント抗体が承認されたことには、驚いたと言っていた。これはがんの臨床試験体制に大きな変革を引き起こすだろう。

そして、がんの種類を問わず、遺伝子異常に基づいて分子標的治療薬を選択する臨床試験(MATCH試験、以前にこのブログで紹介した)は6000症例の登録がゴールだが、すでに5343名が登録され、今年の秋には登録が終了すると報告されていた。4694名はすでに遺伝子検査の報告を受け取り、このうち835名はアクショナブル変異(Actionable Mutation=分子標的治療薬が適していると考えられる遺伝子異常)が見つかった。18%弱と少し少ない印象だが、患者さん集団に偏りがあるのかもしれない。

この835名のアクショナブル変異を持つ患者さんのうち、561名が治験の登録基準を満たしていて、治療薬が投与されたとのことだった。遺伝子検査結果が分かった患者のうち、約12%だ。この数字を高いと見るのか、低いと見るのか、立場によって違うだろうが、これが現実の数字だ。NHKは期待を持たせすぎだったのは明白だ。

さらに免疫チェックポイント抗体では、分子標的治療薬や放射線療法との併用がかなり始まっている。私は個人的には、放射線療法やがんの凍結療法との併用がいいように思うが、これには二つの診療科の協力が必要だ。分子標的治療薬+免疫チェックポイント抗体は一人の医師が実施できるので先行して進んでいるように思える。しかし、治療費はますます膨らんで、どうなるのだろうか。

その観点で重要なのが、リキッドバイオプシーだ。アクショナブル変異を調べるためにバイオプシーが必要だと、バイオプシーに伴う合併症やそのコストが大変だ。米国でのバイオプシーは1回100万円前後の経費がかかるので、遺伝子診断コストを加えると、150-200万円に膨れ上がる。それで、20%(上記のMATCH試験よりは甘い試算)の患者さんに分子標的治療薬が見つかるとすると、適応する患者さんを一人見つけるために1000万円弱の経費が必要となってしまう。手術材料があれば、それを利用することは可能だが、がんは経時的に変化するので、リアルタイムでのがんの情報を得る材料としても、リキッドバイオプシーが不可欠となるであろう。ちなみに、EGFRのリキッドバイオプシー診断は米国FDAですでに承認済みだ。日本は本当に遅れている。


編集部より:この記事は、シカゴ大学医学部内科教授・外科教授、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のシカゴ便り」2017年6月7日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。