米上院情報委員会が8日に開催した公聴会で、各メディアによって勝者と敗者は真っ二つに分かれております。トランプ支持とトランプ不支持の天下分け目のペンの戦いにて、両者の分析は以下の通りです。コミー前米連邦捜査局(FBI)長官の議会証言にあたっての声明はこちらをご参照下さい。
まずは、トランプ政権のバノン首席補佐官が会長を務めていたブライトバートをみてみましょう。
勝者:ドナルド・トランプ米大統領
→トランプ米大統領は捜査対象でなかった上に、FBIによるロシアゲート捜査を断念するよう要請しなかったことが明るみになった。またコミー氏は、FBI長官を解任するにあたってトランプ米大統領が決定を下すにあたり法的拘束はないと証言。MSNBCのクリス・マシュー氏のようなリベラル派のTV司会者ですら、ロシアゲートをめぐり「共謀なし」と譲歩せざるを得なかった。
敗者:主流メディア
→NBCのチャック・トッド氏は今回の議会証言が1954年に上院政府活動委員会常設調査小委員会のマッカーシー委員長が反共産主義を主導し米国陸軍に挑戦した公聴会をはじめ、ウォーターゲート事件に関する1973年の公聴会、イラン・コントラをめぐる1987年の公聴会など歴史的なニュースになると伝えた。しかし蓋を開けてみればそうならずジェームズ・リッシュ上院議員(民主)の質問でトランプ米大統領が捜査中止を要請せず司法妨害であるリスクが消えた。トランプ米大統領はコミー氏の議会証言内容を受け「疑いが晴れた」と安堵したという。
敗者:ジェームズ・コミー前FBI長官
→スーザン・コリンズ米上院議員の質問で、コミー氏が友人に主流メディアへのメモ流出を依頼したと認めた。メモを執筆した理由についてトランプ米大統領が嘘をつく可能性があったためと証言したものの、公聴会を経てトランプ米大統領は真実を語っていたことが判明したと言える。
敗者:オバマ前政権/ロレッタ・リンチ元司法長官
→ビル・クリントン元大統領と移動中の短い時間とはいえ会談したリンチ元司法長官の行動により、コミー前FBI長官は米大統領選のわずか11日前に再捜査を発表する決断を下した。
敗者:左派民主党、ネバー・トランプ
→弾劾の糸口になると期待して仕事を休み”公聴会視聴パーティー”を開催したものの、水泡に帰した。
音声メモ、コミー前FBI長官ではなくトランプ米大統領が所持しているとの憶測は未だ消えず。
(出所:Mike Licht/Flickr)
CNNはというと、このような結果を示しています。
勝者:コミー前FBI長官
→沈着冷静に対応し、Gメンさながらだった。クリントン元大統領とリンチ元司法長官の短い会談の後にメール問題で再捜査を決断したことも、彼自身にとってのダメージを回避した。
勝者:リチャード・バー上院情報委員会委員長(共)/マーク・ワーナー副委員長(民)
→共和党、民主党による広範囲にわたる質疑応答を消化させ、かつ時間通りに開始・終了できた。
勝者:アンガス・キング上院議員(民)
→ロシアによる米大統領選の関与をはじめ、トランプ米大統領がコミー前FBI長官とディナーを求めた件など的確な質問を行った。
勝者:トマス・ベケット
→キング上院議員とコミー前FBI長官の間での質疑応答は、ヘンリー2世がカンタベリー大司教のトマス・ベケット氏を死に導いた有名な言葉が引用された。即ち「誰かあの面倒な神父を追い払ってくれないか(Will no one rid of me of this turbulent priest?)」であり、トランプ米大統領がロシアゲートの捜査中止を依頼したことをめぐって言及されている。キング議員が「大統領執務室で大統領が”I hope”や”I suggest”、”would you”などの言葉を使った場合、大統領からの指示だと受け取るか」との質問に、コミー前FBI長官はイエスと回答しただけでなく、「自分の耳には”will no one rid me of this meddlesome priest”に聞こえた」とヘンリー2世の言葉をもじって回答。その後でキング議員がヘンリー2世の言葉を引用するつもりだったと明かした。
勝者:ダニエル・リッチマン氏
→コミー前FBI長官は、長年の友人でコロンビア大学ロースクールの教授であるダニエル・リッチマン氏にメモのリークを依頼したと証言、リッチマン氏は瞬く間に有名人となりコロンビア大学ロースクールのウェブサイトはアクセスが集中した影響で停止した。
勝者:No fuzz
→コミー前FBI長官が証言で”明白”らしき意味で3回使用したこの言葉は辞書にはなく、単なるバンドの名前だった。
敗者:トランプ米大統領
→司法妨害を証明することは法的に困難で、共和党議員からも”I hope”という表現は指示とは別物と指摘した。しかし、コミーFBI長官はトランプ米大統領が嘘つきだと何度も証言し、大統領が主張するコミー前FBI長官との面談内容は「全くの間違い」と明かした。今後の調査次第では、コミー前FBI長官の証言が大統領の信頼性問題に対し有力な証拠となりうる。
敗者:ジェフ・セッションズ司法長官
→ロシアゲート捜査をめぐり関与忌避を決めたセッションズ司法長官とトランプ米大統領の間に亀裂が生じ、セッションズ司法長官は辞任を示唆した。その後に行われた議会証言で、コミー前FBI長官がセッションズ司法長官に対し、トランプ米大統領にコミー氏自身への接触をやめるよう要請したものの、返答を避けたことが判明。
敗者:ロレッタ・リンチ元司法長官
→クリントン元国務長官のeメール問題に対し、リンチ元司法長官はコミー前FBI長官に公に言及する際”捜査(investigation)”ではなく”問題(matter)”と扱うよう要請したことが判明。コミー前FBI長官は、この表現がクリントン陣営の説明と同じだったとも証言。
敗者:ジョン・マケイン議員(共)
→コミー前FBI長官へのクリントン元国務長官へのメール問題やロシアゲートに関する質問は、的を得ていなかった。
——いかがでしょうか?トランプ米大統領を司法妨害で弾劾できるほどの証拠に乏しかったとはいえ、完全にシロとは言い切れず見事なまでに玉虫色の結果だったと言えます。他ならぬ共和党上院はセッションズ司法長官が2016年にロシア高官との接触していた事実を指名公聴会で証言しなかった問題を抱え、コミー前FBI長官も「公開の場で議論できない事実がある」と明言していました。共和党の解決策としては2つあり、突っ込んだ調査を行うか、あるいは見過ごすか。ただしトランプ米大統領がロシアゲートに関し、コミー前FBI長官の証言を含めツイートし人々の注目を集めてしまう有様。上院としては8月の休会前に医療保険制度改革(オバマケア)撤廃・代替案移行を成立させたいところでしょうが、足並みはなかなか揃いづらいようです。
(カバー写真:米上院情報委員会)
編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2017年6月11日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。