ベビーカーもハイヒールもOKの観光農園
弊社の観光農園「ブルーベリーファームおかざき」が、今期もグランドオープンを迎えました。6~7月は雨の多い時期ですが、雨天用ハウス栽培を開放しており、また雨具を着用すれば屋外の畑でもブルーベリー狩りができます。
畑には防草シートが敷いてあるため泥だらけにはなりませんし、フラットで歩きやすいため車イスの方やベビーカーの来園もOKです。晴れた日にはスカートやハイヒール姿でブルーベリー狩りができるということもあり、密かなデートスポットにもなっているようです。
このシート敷きを実現しできたのも、前回お話しした、「溶液栽培システム」のおかげです。
さまざまなメリットをもたらす「無人栽培」とは
大手企業の管理職だった私が決死の覚悟で脱サラし、憧れだった農業の世界に飛び込んで、試行錯誤のなか作り上げたこのブルーベリー観光農園。
従来の農業を見直し、前職のスキルを活かして“生産性向上”に徹底的に取り組んだ結果、年間の営業日60日あまりで1万人の来客数を記録し、連載タイトルのとおり、年収2千万円・シーズンオフは週休5日という生活を送ることができています。
それを実現した秘策のひとつが「溶液栽培システム」を利用した「無人栽培」です。
ブルーベリー農園というと、地面に穴を掘って植える「土耕栽培」が一般的。それに対して「溶液栽培システム」は、人工培地(アクアフォーム)を入れた大きなポットにブルーベリーを植え、その人工培地にコンピューターが日に数回ほど自動で液肥を点滴灌水してくれるというシステムです。
これにより、水やりや肥料をやる時間が大幅に削減できたのですが、やがて、むしろほかの2つのメリットの方が大きいということに気づきました。それは、最高品質のブルーベリー生産が可能になったことと、生育の速さです。
植物の眠っている潜在能力を最大限に引き出す
さて、なぜこの方法で最高品質のブルーベリーができるのでしょうか。
そもそも植物には必ず原産地というものがあり、長年生育してきた環境はその植物にとって最適なものです。植物を栽培するうえでは、その原産地の環境を再現することが必須となります。
ブルーベリーは、北米原産のツツジ科の落葉温帯果樹で、強い酸性土壌、排水性、保水性の良い土壌で生育してきました。日本は気候的には温帯なので問題ないのですが、土壌に大きな問題があります。
しかし、溶液栽培システムは、排水性、通気性、保水性を兼ね備えた人工培地(アクアフォーム)に、定期的に「強い酸性」と「アンモニア態窒素」の要素を重点的に反映した肥料を自動供給してくれます。安定的に、原産地北米の環境を忠実に再現できるのです。
肥料の配合の比率などは品種によっても異なるため、まだ手探り状態で日々研究を重ねていますが、酸性かアルカリ性かを示すPHや肥料濃度ECなどを数値でチェックし管理できるため確実に再現性が保障され、ほとんど失敗はありません。
原産地の環境にできる限り近づけ、眠っている潜在能力をあますところなく引き出したブルーベリーは、見た目からしてほかのものとは大きく異なります。
当園では、35種類1300本の完熟ブルーベリーを揃えていますが、大粒のものではなんと500円玉大というサイズ。美味しさを測るひとつの指標である「糖度」も、一般のフルーツの10度~15度くらいに比べ、晩生種ラビットアイ系ブルーベリーの糖度は16度以上と甘さが際立っています。味にコクがあり、パリッと食感がいい皮も特長です。
驚くべき生育スピードを実現
これら、労働時間の削減、品質向上に加え、もうひとつ大きなメリットが、生育の速さでした。
「桃栗三年柿八年」とよく言われますが、これは果樹が身をつけるまでにはそのくらいの年月が必要ということを表しています。
ブルーベリーも、土耕栽培では、2年生の苗木を定植してから収穫するまで通常3〜4年かかります。野菜なら植えて3、4ヶ月で収穫してお金になるのに、ブルーベリーは3、4年も待たされるのではあまりにも非効率でお話しになりません。
これに対して、溶液栽培システムで育てると、たった1~2年で収穫が可能な大きさにまで生育するのです。
これをコスト換算するのは難しいですが、この農園の開園初年度と2年目の売上がおよそ合計1500万円になるので、そのくらいのコストメリットがあったと考えていいと思います。
溶液栽培システムはさらに副産物を生みました。大きなポットで栽培するスタイルなので、そのポットの下の地面には草が生えないようにシートを敷いたのですが、それにより畑の草刈り作業から解放され、年間約200時間の作業時間を削減することに成功しました。
また、冒頭のように、歩きやすく靴が汚れることもないので、普通のデートやレジャーと同じ服装で気軽に足を運んでもらうことができると好評です。
また、ポットは移動できるので、樹の入れ替えも簡単ですし、将来的には移動式観光農園などもできるかもしれません。移動可能というだけで、発想がどんどん広がります。詳細は拙著『最強の農起業!』でご確認ください。
人の育て方もブルーベリーと同じ
蛇足ですが、この栽培法に出会って、つくづく考えさせられることがあります。それは、人の育て方も同じではないかということです。
この栽培法は、原産地の最適な栽培環境を再現することによって、ブルーベリーのDNAに刻み込まれている潜在能力を最大限引き出すことができます。環境が整っているので、生育旺盛で、普通では考え有れないくらいの幹の太さになり、プレミアムなブルーベリーがたわわに実るのです。
ある家具職人からこんなことを聞いたことがあります。「本当に良い木とは、風雪に耐え抜いて育った木ではなく、たまたま良い環境に恵まれて、すくすく育った木だ」と。
そう考えると、人の育て方も、本人が望まないような厳しい環境でスパルタ式に育てるのではなく、やる気スイッチが入るような生活、学習、職場などの環境を整え、本人の主体性に任せて育てることが、その人の可能性を最大限引き出せるのかもしれません。
そもそも私は、人の能力にはほとんど大差はないと思っています。子ども、社員などを育てる際に、環境を整えることがいかに重要か気付かされました。
次回はなぜ私が「観光農園」というスタイルを選んだのか、その理念とビジョン、そして観光農園のメリットをお話ししたいと思います。
(構成:山岸美夕紀)
2017-06-07
畔柳 茂樹 (くろやなぎしげき)
農業起業家。愛知県岡崎市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。
愛知県岡崎市生まれ。早稲田大学卒業後、自動車部品世界No.1のデンソーに入社。40歳で事業企画課長に就任も長年の憧れだった農業への転身を決意。2007年、観光農園「ブルーベリーファームおかざき」を開設した。
起業後は、デンソー時代に培ったスキルを生かし、栽培の無人化、IT集客など新風を吹かせ、ひと夏1万人が訪れる地元の名物スポットへと成長。わずか60日余りの営業で、会社員時代を大きく超える年収を実現した。近年は観光農園プロデュースに取り組み、被災地復興事業として気仙沼にも観光農園を立ち上げた。これらの経歴・活動がマスコミで注目され、取材・報道は100回を超える。