MASTで展示されたMAVの模型です。写真は許可を取って撮影しております。
水陸両用装甲車に関する記事ですが、事実と妄想が混在しています。
6月12~14日に幕張メッセで開催される「MAST Asia 2017」に、日本防衛当局の武器調達姿勢を評価する上で興味深い展示がなされる。それは、三菱重工業が社内研究として開発を進めてきた水陸両用車「MAV(Mitsubishi Amphibious Vehicle)」である。
MAVの研究開発は、長らくアメリカ海兵隊が使用してきた水陸両用車「AAV-7(水陸両用強襲車-7型)」の後継車両「EFV(遠征戦闘車)」の開発にアメリカ技術陣が失敗したため、「EFVに取って代わる車両を開発できないものか?」といった理由がスタートラインになったと筆者は推察している。
この推察は極めて不明瞭で誰のために?なのでしょうか、米海兵隊でしょうか、陸自でしょうか、その両方、あるいは国際市場でしょうか。よく分かりません。
この方向性は、軍事情勢に鑑みると極めて正しい。というのも、中国による海洋拡張戦略の伸展に伴って、日本からインドにかけての、中国周辺諸国ならびに“海のシルクロード”沿岸諸国では水陸両用作戦遂行能力の必要性が高まっている。
で、ご自分の推察をご自分で正しいと肯定しているわけです。自分で自分の推論を正しいと太鼓判を押してもいににがありません。
しかも実際に正しくありません。従来の米海兵隊のこの種の装備は強襲揚陸を前提としており、今や軍事技術の発達で強襲揚陸は相手がゲリラ程度でも無い限り不可能です。現在の揚陸作戦はパラダイムの転換期にあります。
現代の水陸両用戦では、ミサイルやロケット砲を擁する敵が待ち構えている海岸線にAAV-7を連ねて突入する(強襲)ことはない。AAV-7の投入形態としては、敵の防御が希薄な地点に急接近する(襲撃)作戦が現実的である。だが、水上での最高速度が7ノットのAAV-7では敵に発見されて撃破されてしまう危険が極めて大きく「実際の戦闘状況では使い物にならない」とアメリカ海兵隊は考えた。
これも随分偏った分析です。速度が二倍になっても非発見率は変わりません。何しろ母船団が発見されれば揚陸してくることは馬鹿でも想像がつきます。その時点で強襲となります。
そもそも危険が無い場所であるならば、揚陸艇に通常の車輌を搭載して揚陸すればいいことになります。わざわざ水陸両用装甲車で海から上がってくる必然性はありません。
むしろ問題は火器の発展で今までのような、海岸から10キロ程度の距離では母船団が地上からの攻撃で被害を受ける可能性が増えています。155ミリ榴弾砲ですら射程は40キロとなっています。さらには精密誘導砲弾も実用化され、ミサイルも同様です。
このために母船団は水平線より手前、約40キロほど手前でとどまることになります。
そして、当然ながら水陸両用装甲車の移動距離は長くなります。その間の数時間を精密誘導砲弾やミサイルなどの攻撃に晒されることになります。これで速度が二倍なれば被弾する時間が半分になります(といっても気休めですが)。
EFVの開発は被弾時間を少なくすること、同時にAAV7よりも強い火力で的の火力を制圧、またより高い不整地踏破性能でAAV7で揚陸不要な地形での揚陸を可能とすることです。それでもバイキングなどと比べると不整地踏破能力は決して高いとはいえません。しかし実際問題としてAAV7では砂浜以外に揚陸できません。
新型車両の調達を完全に中止してしまうと、新型車両開発予算そのものが将来にわたって消滅しかねない。そのため、とりあえずの“繋ぎ”として「ACV-1.1」(水陸両用戦闘車-1.1型)と呼ばれる新型水陸両用車を調達することにしている。だが、ACV-1.1はAAV-7の後継車両とみなすことはできず、「EFV開発以上の予算の無駄遣いになる」と多くの海兵隊関係者たちが危惧している代物である。
こうして、アメリカ海兵隊はEFVプログラムがキャンセルされ、“化石”のようになりつつある「時代遅れのAAV-7」を今後も(計画では2030年代まで)使い続けなければならない状況に陥った。そのため、なんとかして現代戦に適する「高速かつ長距離の水上航走可能な」かつ「EFVのような超高額でない」新型水陸両用車を手に入れたいと常々考えていた。
これも読者をミスリードする我田引水です。
米海兵隊はACVの開発と同時に、AAV7の近代化を行っています。著者はそのことを知ってか知らずか、記述しておりません。これまで多くの海兵隊関連の記事を書いているにもかかわらずです。
そのような状況に苦しんでいた海兵隊関係者たちが、三菱重工業が社内研究していたMAVの情報に接し、極めて大きな関心を寄せたのは無理からぬところである。なぜならば、「MAVが完成した暁には、EFV以上の高速水上航走能力を持ち、EFVにはなかった諸性能をも実現させることが可能な、まさにアメリカ海兵隊が求める新型水陸両用車である」と海兵隊関係者たちの眼には写ったからである。
ところが、それら海兵隊関係者たちの“希望の星”を破砕する“ミサイル”が日本側から発射された。すなわち、日本国防当局による50両以上にのぼる「時代遅れのAAV-7」の調達である(2015~2016年度に調達、参考「自衛隊の『AAV-7』大量調達は世紀の無駄遣いだ」)。
これも面妖な話です。ぼくの知る限り、MHIによる開発の話が出てきたのはAAV7の調達が既に事実上決してからです。しかも防衛省の幹部によると完成には20年はかかるという話でした。
本日MASTで三菱重工の担当者にMAVの話を伺ったのですが、現在は要素研究の段階であり、具体的な開発に関しては10式と同じ程度の7年ほどではないか、というお話でした。しかしその前に官側の要求をまとめる時間も必要す。著者のAAV7の代わりに導入するのは不可能です。
ところが、日本側は「中古では嫌だ」と言ってきたという。そこで、アメリカ海兵隊が「なんとかして新型に交代させなければ」と考えている「時代遅れのAAV-7」の“新車”を製造して日本に売却することになった。
だが、とうの昔にAAV-7の製造ラインは閉じられている。製造ラインそのものを再開させなければならないため、1両あたりの調達価格は7億円という途方もない値段になってしまった。
ここまでは事実です。ですがその後がいけません。
AAV7の導入は持田陸将と森本防衛大臣(当時)の鶴の一声で決定し、ろくに評価もされないま話が進んだ経緯があります。そしてユニバーサル造船が提案した案はまったく箸にも棒にもでした。
この調達に対し、筆者の周辺では「海兵隊から中古AAV-7を手に入れれば“タダ”だったのに」「BAE(日本向けAAV-7は全車両をBAE Systemsが製造輸出する)は笑いが止まらない」といった驚愕の声が聞こえてきたものだ。
ここは完全に事実ではありません。ZAAV7の中古は只ではありません。
実際にサンプルとして買った中古には対価を払っており、FMSで輸入されています。
米軍が我が国只でくれるわけがありません。敗戦直後のM4シャーマン貰った時代じゃありません。またブラジルでもAAV7の中古には対価を払っています。因みにブラジルも今後新造のAAV7を調達する予定です。
著者の完全な思い込みであり、それをリサーチしていなかったということでしょう。
因みに中古といってもリファブリッシュして完全にオーバーホールして、エンジンも変えて新品同様になります。つまりは輸出するまでに費用がかかります。右から左に中古品をそのまま渡すわけではありません。これを只で経済大国の我が国にくれてやるほどアメリカ様がお人好しなわけがないでしょう。
ちょっと考えてもそんなうまい話があるわけないじゃないですか。
ぼくが聞いた話では米海兵隊の中古を買え、そうすれば安く済むだろう。で、俺たちがAAVの近代化をしたら、それに併せて近代化すれば相互運用性も確保できると説得したそうです。でも陸自は新品にこだわったので、恐らく近代化の予算を捻出できない。わざわざ安価に現用と同じものが新品同様で安く手に入り、将来は近代化して海兵隊と相互運用性も確保できたのでに、わざわざ高いものをして、近代化による能力の向上と海兵隊の相互運用性を捨てたわけです。シロウト以下の判断です。
ただしその米海兵隊でも、近代化するのは90輌程度まで減らしているいいます。ですからさほど相互運用性は担保されなくてもいいかもしれません。ですが、あえて高い新品を買う必要はありませんでした。
著者の論の進め方は読者を巧妙に誘導するものとしか見えません。
「50両以上ものAAV-7を自衛隊が手にしてしまうと、おそらくそれで水陸両用車の調達は当面ストップとなるだろう。いくら陸自が水陸両用能力を手にしようとしているといっても、水陸両用車を100両、200両あるいはそれ以上保有するような大規模な海兵隊化を目指している動きはない。とすると、MAVの開発はどうなってしまうのだろうか? 日本政府主導の開発プロジェクトが進まなければ、われわれ(アメリカ海兵隊)も、使い物にならないACV-1.1ではない『MAV』という真の新型水陸両用車候補が存在すると主張して、この窮地を乗り切ることができなくなる」
日本国内メーカーが、独自の技術を投入して新型水陸両用車の研究を進め、そのMAVに対して、水陸両用車に関しては突出した経験とノウハウを有するアメリカ海兵隊関係者たちが大いなる期待を寄せている。そのような状況下で、日本国防当局自身がアメリカ海兵隊が捨て去りたがっている「時代遅れのAAV-7」を、実戦配備用としてまとめ買いしてしまったのでは、海兵隊関係者たちがペンタゴンやトランプ政権に対して「日本には、海兵隊にとってぜひとも手に入れたい新型水陸両用車技術がある」と説得することなどできなくなってしまう。
MHIのMAVを海兵隊が熱望しているのですか。聞いたことが無い話です。
そもそもご案内のようにMAVがものになるのは10年以上は後の話です。しかも現時点では要求も仕様も決定していません。
そして海兵隊はかなり先まで、2030年ぐらいまでAAV7を使い続けます。これは決定です。しかもMHIにはこのような車体を開発した経験もありません。技術の分かる人間ならば日本の装甲車は3流であることは理解しています。日本の防衛産業の実力を知っている海兵隊が、2ちゃんあたりに巣くっている程度の悪い軍オタみたいなことを考えるでしょうか。
ぼくの取材した限り、防衛省側ではMAVの調達は、AAV7の後継で宜しいと考えがあります。GDあたりとの共同開発も視野に入れたいという思惑もあります。その頃には海兵隊のAAV7も退役でしょうから、筆者の主張は妄想の類いです。
もしも日本政府、そして国会が、このような自国に横たわる技術の発展を阻害するような異常な兵器調達を是正して、日本製新型水陸両用車(あるいはその技術)をアメリカ海兵隊が採用するに至ったならば、少なくとも西側諸国の水陸両用車のスタンダードは日本技術ということになる。
率直に申し上げて、日本の軍事技術を買いかぶりすぎです。
実践経験も、市場で揉まれた経験もなく、少ない予算で、基礎研究も殆どしない、トライアルも殆どせず、試作もすくない。それでいて他国を凌駕する兵器を簡単に開発できると信じるのは妄想の類いです。
しかも三菱重工は水陸両用装甲車の開発の経験がなく、初めての開発となります。すんなり開発できるとは限らないし、EFVの用に頓挫する可能性もあります。
現代の水陸両用車は、日本政府や国会が忌み嫌う“攻撃型武器”ではなく、主として海上から海岸線への(またはその逆)の兵員輸送に用いられる軽装甲輸送車である。現在、水陸両用車の活躍が最も期待される戦闘シナリオは、混乱地域から民間人を救出し海岸線から水上の艦船へと避難させる非戦闘員待避作戦である。そして実際には、戦闘よりも大規模災害救援作戦に投入され獅子奮迅の働きをするのが水陸両用車である。したがって、軍事的見地からは噴飯物の“攻撃型兵器”を根拠に兵器の輸出に反対する勢力にとっても、国産水陸両用車(あるいはその技術)の輸出に反対する理由は見当たらない。
全くもって意味不明です。国会で問題となった「攻撃兵器」とはICMBのような長距離弾道ミサイルや米海軍の空母のような「攻撃型空母」、戦略爆撃機などです。
水陸両用装甲車が「攻撃的」でないならば、殆どの装甲車両は攻撃的兵器ではないでしょう。
「もっとも考えられるシナリオ」もおかしな話です。島嶼防衛ではないのですか?
しかもそのシナリオであれば、別に上陸用舟艇やらビーチングができる揚陸艦でOKで、余程効率が宜しい。あるいは大型の輸送ヘリが有用です。たかだか10~20名前後(これも決まっていない)が登場でき、揚陸船内部で大きなスペースを占有する車輌よりも余程有用です。
銃剣が料理にも使えるよね、家庭でも便利だよね。だから兵器ではないよね、と主張するようなものです。
「軍事的見地からは噴飯物」なのは筆者の主張の方ではないでしょうか。
そもそも揚陸作戦において水陸両用装甲車が必要なのか、という話もあります。
これから水陸両用装甲車をつくるのは電車が登場しているのに、最高性能のSLを作るようなことになるかもしれんません。そういう技術予測も陸幕や装備庁には必要になります。
敵からの攻撃が想定される環境において、早くてもせいぜい時速30キロ程度の水上航行速度ではカモネギでしかありません。
ですから英海兵隊はヘリでの空輸に力点を置いています。例えば空輸可能な装甲車のほうが有用かもしれません。また英海兵隊はは2連結の踏破性能が極めて高いバイキングを採用していますが、自力航行する装甲車よりも、海岸近くまでバイキングを揚陸艇で運び、そこから自走させた方が有利でしょう。繰り返しますが、米EFVですらそれほど踏破性能は高くありません。リーフや護岸工事した海岸が多い南西諸島で役に立つ水陸両用装甲車の開発は極めて困難でしょう。
そもそも陸自の水陸両用団のような部隊と米海兵隊では想定する作戦も違います。コンセプトが違います。ですから同じ車輌が必要とは限りません。本当に同じ車輌いいのでしょうか。米海兵隊は先ずそこを気にするでしょう。
ところが自衛隊は英海兵隊は含めて、諸外国の水陸両用部隊をまったく視察も、調査もせず思いつきと妄想と、米海兵隊の見よう見まねで、水陸両用機動団を作りました。ぼくは4年前に英海兵隊の基地を日本人ジャーナリストとして初めて取材しましたが、その記事を書いた翌年に陸自は英海兵隊の調査に人間を送っています。民間のフリーランスの文屋風情に遅れをとってどうするんでしょうか。
基本的に防衛省やMHIの開発自体も無理があります。我が国で仮に必要とされるこの種の車輌はせいぜい、上をみても100輌程度でしょう。実際現状の50両程度でも持て余しています。
であれば、その程度の数の装甲車を開発するために多額の開発費と製造ラインが必要となり、調達単価は極めて高くなります。そのような贅沢ができるのでしょうか。
しかもAAV7の整備は通常の装甲車両の何倍もカネがかかります。整備もヘリなどと同じでIRANも必要です。今後長期機に渡ってAAV7が陸幕の装甲車両予算を食い潰し、新規装備や他の車輌の整備費用の捻出が難しくなるでしょう。その事実に気がついた時に、それでもその後継を導入するでしょうか。
これから先、89式戦闘車やその他偵察車輌、APC、指揮通信車輌など90年代までに開発された車体の更新が必要ですが、カネは天から降ってくるのでしょうか。
仮に米軍との共同開発してになれば、米国側の要求を入れて仕様も決めないといけません。そこで揉めて決別ということもあるでしょう。アメリカが採用してくれれば、千輌単位でオーダーが舞い込んでウハウハ、というのは妄想の類いです。
(本コラムの見解は三菱重工業の見解とも、またアメリカ海兵隊の見解とも無関係であり、筆者個人の意見である。)
このような一文を入れることで、むしろ憶測を呼ぶのではないでしょうか。今日取材した三菱重工の人たちも苦笑していいました。下手をすると彼らも痛くない腹を探られかねません。
妄想と願望と事実を混ぜて記事を書くべきではありません。
編集部より:この記事は、軍事ジャーナリスト、清谷信一氏のブログ 2017年6月12日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、清谷信一公式ブログ「清谷防衛経済研究所」をご覧ください。