目からウロコ!防衛大式コミュニケーション術

尾藤 克之

後列の右から3番目が濱潟氏。個人情報保護の観点から濱潟氏以外はモザイク処理を施した。

防衛大は自衛隊の幹部自衛官を養成する教育・訓練施設である。卒業式は内閣総理大臣や防衛大臣の出席、訓示が慣例となっている。「自衛隊法第53条」及び「自衛隊法施行規則第40条」に則り、宣誓書に署名捺印をする事が義務付けられているが、これは、日本国憲法、校則遵守への宣誓となる。

何があっても必ず結果を出す! 防衛大式最強の仕事』(あさ出版)の著者であり、防衛大のメソッドを使用しながらコンサルティングサービスを提供している、濱潟好古(以下、濱潟氏)は防衛大出身で知られている。今回は、防衛大の数多くのノウハウのなかでもすぐに実践できる「コミュニケーション術」について聞いた。

防衛大の「数値化表現」は目からウロコだった

――防衛大のコミュニケーション術と聞いても「ピン」とこない人がほとんどではないだろうか。今回は特別にその一部を紹介したい。

「防衛大では、時間を表現するとき『午前』『午後』といった言葉は使いません。『24時制』を取り入れているからです。発音も表記方法も一般とは異なります。『午前7時41分』の表記は『0741』。発音は『まるななよんひと』です。『午後7時41分』の表記は『1941』。発音は『ひときゅーよんひと』です。」(濱潟氏)

「緊急事態が発生し、防衛大の正門に集合するよう伝達があるとします。『まるななよんひと』までに正門集合。防衛大ではこのように伝達します。」(同)

――言葉が長いと、ミスが生じやすいため、このような方法を取り入れているのだという。しかし少々刺激的だ。

「『7』は『しち』ではなく『なな』と呼びます。『1 (いち)』と間違えやすいためです。聞き間違いをして、7時41分に集合するところを1時41分に集合してしまったらシャレになりません。表記も『:』『時』『分』といったものは省きます。余計な情報であり、書いたりする時間がもったいないからです。」(濱潟氏)

「他にも、書類上では『昨日』『今日』『明日』や『昨年』『今年』『来年』などといった表記は認められません。すべて『00年00月00日』と日付を明記します。」(同)

――「防衛大だからねえ。ウチには関係ないよ」と思った人もいるだろう。この考え方は他の場面に置き換えると正しいことが理解できる。例えば、「のちほどお電話いたします」。この「のちほど」というのはいつのことを指すのだろうか。役人がよくつかう「可及的(かきゅうてき)速やかに」も時期が不明瞭である。

「あいまいな表現もミスコミュニケーションの原因になります。人によっては5分以内を『すぐに』と理解するかもしれませんし、1時間と考えて予定を組むかもしれません。当然、防衛大ではNGワードです。次の行動の予定が立てられない、指示が間違って通るなど、支障を生じるからです。多くの場合、トラブルにつながります。」(濱潟氏)

「共通の認識を持てる『数値化表現』には多くのメリットがあります。仕事の大敵は、『あいまい』です。お互いの理解にズレが生じ、そのズレがムダを生みます。」(同)

「期限」や「締め切り」は数値化表現する

――防衛大の事例なので難しいと思われる人もいるだろう。しかし、ビジネスの場面でも時間に関連するものは数値化すべきといえる。

「定量化できる表現はすべて『数値化』することが原則です。『もっと頑張ります→10社の新規開拓をします』『一生懸命にやります→100万円の売上げをあげます』。このように『あいまい表現』を数値化すると、成果の質がぐっと上がるはずです。」(濱潟氏)

――余談だが、せっかくの機会なので「可及的速やかに」のような役人言葉についても説明をしておきたい。期限に関する役人言葉がある。「速やかに」「遅滞なく」「直ちに」の3種類である。代表的な表現はこの3種類と思っていいだろう。これは法律上においても、時間的即時性に関する言葉として使いわけがされている。

「速やかに」は期限を定めているわけではないので、すぐにやらなくても問題が無い。「遅滞なく」も同じである。さらに「遅滞なく」は「事情の許す限り~」の意味で使用される。つまり事情があればやらなくても許される。「遅滞なく対応することを検討したが、問題が生じたことから検討は進んでいない」。このように使用する。

もっとも即時性が高いのは「直ちに」である。「即時に」「いま直ぐに」という意味である。「火事を見つけた。遅滞なく消防車を呼んだ」「交通事故が発生した。可及的速やかに救急車を呼んだ」とはいわない。つまり、即時性の高い順番で考えるなら「直ちに」「速やかに」「遅滞なく」の順番になる。

――さて、本書には日常で役に立つテクニックが紹介されている。若いビジネスパーソン向きと考えられるが、上司のコネタとしても役立ちそうだ。

参考書籍
何があっても必ず結果を出す! 防衛大式最強の仕事』(あさ出版)

尾藤克之
コラムニスト

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