法律は戦略的に使ってこそ企業の役に立つ

荘司 雅彦

以前、コカコーラ社の膨大な数の提訴が市場シェアを握るという極めて戦略的な目的で行われたことをご紹介しました。今回は、私が手がけた戦略的なケースをひとつご紹介します。

酒類卸業を営んでいた顧問先から、商品納入先である問屋のA社が倒産しそうだという相談を受けました。売掛け金が1000万円くらいあったのですが、A社の不動産は銀行の担保に入っていましたし、商品はすでに小売店に納入済みで在庫はほとんどありません。代表者の生命保険もすでに解約済みでした。

はっきり言って完全にお手上げのケースで、弁護修習をしていた時「公正証書」でも巻くしかないと言って公正証書作成手続をして手続費用をもらったベテラン弁護士さんを思い出しました。

ご存知のように、資力がなくて破綻しそうな会社相手に公正証書を巻いても全く意味がありません。強制執行の余地がないのですから。

とはいえ「顧問先様は神様です」が当事務所の方針だったので、「諦めましょう」とは言えません。私は顧問先の社長に対して「御社の業界では不景気のせいもあって売掛け金回収に苦労しておられますよね。ダメ元で私の指示に従ってください」と持ちかけました。

A社は破綻寸前だったので、小売店の売掛け金を回収する従業員も退職しておりませんでした。
A社の社長を説得して100件近い小売店へのA社の売掛け債権の譲渡を受け(小売店に内容証明で通知)、顧問先の従業員を総動員して3日間でほぼ全額回収しました。総額が1000万円以上あったので、顧問先の債権が回収されて集金費用まで浮いてしいました。

ところが、私が危惧していた「ダメ元」のダメが発生したのです。A社が自己破産をして、破産管財人が当方に対する債権譲渡を否認してきたのです(破産法上の否認権行使)。

否認権というのは、破産者が破産申立寸前などに自己の財産を他人に譲渡したり、特定の債権者に債務を優先弁済したものを破産財団に取り戻す行為です。債権者平等原則を貫いたものですが、一生懸命回収に努力した債権者にとっては酷な制度です。

私は、「1000万円は管財人に渡しましょう。ただ、回収費用は実費の3倍くらいは認めてもらえるよう交渉します」と顧問先の社長に告げました。管財人が新たに人を雇って100件近い小売店から売掛け金を回収するとしたら大変な労力と費用がかかったであろうことを強調し、多めの回収費用は認めさせることに成功しました。

では、顧問先会社としては回収費用だけが儲かっただけかというと、決してそうではありません。3日間で100件の売掛け金を回収したという噂が業界を駆け巡り、「あそこは、売掛け金を滞納すると怖いぞ」という評判にな立ったのです。

それ以降、しばしば滞っていた売掛け金を滞納する先がなくなりました。売掛け金は2年の短期消滅時効にかかるので、滞納がなくなったのは大きな成果でした。私は、社長に大いに感謝されました。もっとも、私としては、A社が自己破産するために裁判所に収める予納金が調達できず、事実上の破綻で終わってくれることを期待してはいたのですが…。そこまでいったら、出来過ぎですねー。

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荘司 雅彦
ディスカヴァー・トゥエンティワン
2017-06-22

編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2017年6月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。