トランプにエネルギー政策はない!?

岩瀬 昇

Gage Skidmore/Flickr

サウジアラビアの皇太子(MbN)が更迭され、副皇太子(MbS)が昇格するという人事が発表され、これがエネルギー業界・市場にどのような影響を与えるのだろうかと考え続けている。サウジアラムコの海外上場は、王族の意向によりニューヨークになるのだろうか、あるいは、財務アドバイザーたちが強く推薦するロンドンになるのだろうか。また、カタールとの断交の行方も気になる。

そんなことを考えている今朝、興味深い記事があったので次のとおり紹介しておきたい。

業界紙として長い歴史を持つPlattsが「トランプ大統領が主張するエネルギー政策のファクトチェック(Fact-checking President Trump’s energy policy claim)」と題して、東京時間6月23日(金)5:02に報じているものだ。

・アイオワ州Cedar Rapidsで行った水曜日夜のスピーチのファクトチェック結果。

・「アメリカのエネルギー生産に関する制限を撤廃した
評決(Verdict):ほとんど誤り(Mostly false):
オバマ政権の政策をひっくり返すことを優先事項としているが、まったく実現していないか、あるいは提案の段階。たとえばClean Power Planを撤廃する、としているが、これは2022年まで発効しない。また内務省は、2015年の水圧破砕に関する規則を破棄すると発表したが、この規則が仮に施行されても石油生産の5%にしか影響しないし、そもそも(今年)6月に米国地裁によりしりぞけられている。

・「我々の足元には、エネルギーという富が眠っている。彼らは我々からこの富を取り上げようとしている
評決:おそらく誤り(Likely false):
「彼ら」とは誰か? OPECの中には米国が市場シェアーを失うことを望んでいる人もいる。環境保護派はオバマ政権に、化石燃料の生産を制限するよう圧力をかけていた。だが、石油生産量はオバマが就任した2009年の535万BDから2015年には940万BDに、天然ガスは2009年9月の日量640億立方フィート(石油換算1,088万BD)から2016年2月には920億立方フィート(1,564万BD)に増加した。

・「トランプ就任後、鉱業(mining)で33,000人の雇用が増えた
評決:誤り:
石炭産業(coal mining)の雇用は2016年4Qの51,402人から2018(原文ママ)年1Qの52,282人(880人増)に増えた。

・「就任初日にキーストーンXLパイプライン(P/L)およびダコタP/Lを承認した
評決:誤り:
初日に署名したのは「メモ」で、これは「承認」ではない。キーストーンXLP/Lを国務省が承認したのは5月24日。ダコタP/Lは2月8日に建設許可が出、今月操業を開始した。

・「エネルギーの中で石炭が特に有利だ
評決:誤り:
トランプ政権は無視し続けているが、市場のファンダメンタルズはもはや石炭を支持していない。米国の石炭生産量は2014年の10億トンから減少し続け、2017年には7.億8,500万トンになる見込み。

・「米国のP/L建設には米国産の鉄を使うという条項を織り込んだ
評決:ミスリーディング:
1月24日に署名した「メモ」は、米国産の鉄を使用することを奨励するもの。また、キーストーンXLは対象外。既に必要なパイプは手当済み。米国産50%、カナダ産24%、イタリア産16%、インド産10%。

やっぱりトランプの頭の中には、選挙民の気を引くことしかないんだな。国家としてエネルギーをどうすべきか、という本質を捉えたエネルギー政策はない、と言っていいのだろうな。


編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2017年6月23日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。