人生のロールモデルは、別に同じ職業の人でなくてもいい。私は昔から、ロックとプロレスから影響を受けまくっている。人生において最も自分に影響を与えたアーティストは、ANTHEMという日本のメタルバンドであり、同バンドのリーダーである柴田直人さんだ。
14歳の頃からずっと聴いているヘヴィメタルバンド、ANTHEMの新譜”ENGRAVED”がリリースされた。前作”ABSOLUTE WORLD”以来、約3年ぶりの新譜であり、メンバーチェンジ後2枚目のアルバムである。
先行シングルとして”The Artery Song”が配信され、MVが公開された際から期待感は高まっていた。
11曲、約50分のアルバムを聴き終えて、私は感動に震え、心地よい疲労感に浸っていた。デビューから32年。老舗のジャパニーズメタルバンドの全力をかけた、なりふり構わないチャレンジをしている。圧倒的な完成度というか、頑固な仕事ぶりはもちろんのこと、メロディアスでありつつもパワーを追求するスタイルを引き継ぎつつも、新しい色を取り入れようとする進化した姿がここにある。
大きなメンバーチェンジを行い新譜をリリースした2014年、デビュー30周年のアニバーサリー・イヤーだった2015年を経て、新体制でのニューアルバムリリースが期待された2016年、彼らは新譜のレコーディングの1年延期を発表し、ひたすらライブ活動に明け暮れる。レコーディングに入るためのマテリアルを用意していたのにも関わらずである。
1年の延期を経て届けられた新譜は、彼らなりの王道でありつつも、進化、深化したものである。ぱっと聴いてANTHEMだと分かる唯一無二の音なのだが、よく聴くと今までとは違い。ここ数枚の中で最もメロディアス。そして、前作から復帰したボーカルの森川之雄は野太い声を聴かせている。前前作からサポートメンバーとして参加し、前作から正式メンバーとなった田丸勇のドラミングは、もはやバンドにとってはなくてはならないものだ。そして、いまや柴田直人にとって最も長い共同制作者となったギターの清水昭男のプレイは的確だし、何より今回は彼の楽曲がこれまで以上にフィーチャリングされており、アルバムに彩りを添えている。今までにないポップな方向の曲もあり。ジャニーズなどへの楽曲提供でも知られる彼だが、そのポップセンスを活かしつつも、ANTHEMの楽曲でしかない音楽を構築している。外部の作詞家として、遠藤フビト氏を起用したのも世界観を広げていると言えるだろう。
なんせ、このバンド、活動の質と量が半端ない。昨年も小規模のライブハウスをまわるツアーを敢行したが、今年もより大きな規模で実施する。さらに、メタルフェスだけでなく、一般のロックフェスへの出演も決定。フジファブリックなどと同じイベントのステージに立つ。
この志の高さ、圧倒的な当事者意識、行動量にはいつも、驚くばかりだ。
というわけで、もう20回くらい聴いているが・・・。
ANTHEMは私に語りかける。
もっと仕事しろ、と。
素晴らしいアルバムに感謝。
私の新作もよろしくね。結構な時間をかけたよ。
編集部より:この記事は常見陽平氏のブログ「陽平ドットコム~試みの水平線~」2017年6月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。