サウジアラムコはIPOに先立ち情報開示の改善が必要

ムハンマド・ビン・サルマン皇太子が就任して、注目すべきことの一つがサウジアラムコのIPOだ。ニック・バトラーは否定的評価をしていたが(弊ブログ#344参照)、金融業界ではどのような評価なのだろうか?

本件に関連してFTが今朝、興味深い記事を掲載していた。原題は “Saudi Aramco called on to improve data disclosure ahead of IPO” (around 4:00am on June 28, 2017 Tokyo time)で、”Corporate governance body says state-owned oil company is among most opaque” というサブタイトルがついている。

筆者の興味は、911の被害者家族から提訴されるリスクを覚悟してでもニューヨークに上場するのか、ということと、機関投資家以外にスーパーメジャー等が「将来」を見込んで株式取得に動くのかどうか、という点にある。「独自性」を誇る仏トタールあたりは手を出すんじゃないかな?
さて、記事の要点を次のとおり紹介しておこう。

・有力な企業統治調査機関であるNational Resources Governance Instituteが、他の調査を含め、国営資源会社74社の最新調査結果を発表し、来年(2018)に予定されているIPOの前に、サウジアラムコはさらに情報開示する必要があると指摘した。同調査では、世界最大の銅鉱山会社であるチリのCodelcoが100点中90点でトップ、サウジアラムコはたったの27点で64位だった。

・同調査は「(サウジアラムコの)弱点は不透明さだ」「市場で株式を売りたいのなら、より広範な透明性が必要だ」としている。作成者の一人、David Manleyは、投資家にとって魅力的かどうかは次の諸点が開示されているかどうかだ、として、利潤、売上、操業費、埋蔵量、支払った税金、エネルギー事業以外への支出などを挙げている。「これまでアラムコの会計簿に何が記されているのかはっきりしていなかった」とし、さらに、他の多くの国営資源会社のように、歴史的に国家の要請にのみ答えればよかったのだ、という。「事業としては成功しているのかも知れないが、企業統治の観点からいうと非常にお粗末で、説明責任を果たしていない(unaccountable)、不透明な(non-transparent)会社の一社だ」。

・サウジは、2015年と2016年の財務諸表と、2017年の暫定決算数値を投資家に開示するとしているが、NRGIは、国際的な株式市場で上場適格となるためには、同社は課題に直面している、としている。

・サウジアラムコの幹部やアドバイザーたちは、同社は最も洗練された経営を行っている一社であり、米国のエクソンモービルに習って会計基準や企業統治構造を作り上げている、と非公式の場では(privately)述べているが、公にこれを証明するものはない、とNRGIは指摘する。さらに、国際的な市場に上場するには、企業統治を強め、事業実態と財務内容を公開してチェックできるものにしなければならない、という。

・ニューヨークとロンドンが上場を争っているが、業界関係者は、ニューヨークでは情報開示と企業統治に関する世界で最も厳しい国際基準ルールに合致することが求められると指摘している。

・NRGIは、OPECのイラク、クゥエート、ベネズエラ、アンゴラ、エクアドル、さらには内乱で混乱しているリビアやナイジェリアでもサウジより上位に位置しており、イランは下位だ、としている。

・国毎の評価では、サウジは89カ国中69位、ノルウエー、チリ、英国、カナダ、米国がトップファイブで、エリトリア、トルクメニスタン、リビア、スーダン、赤道ギニアが最低グループ。

・この評価には、許認可に関する法律、税制、国営企業や国家資産基金の企業統治、資源採取の現場への影響、国家予算などが含まれている。

ところで、今回の「人事」でムハンマド・ビン・ナーイフが表舞台から姿を消すことになったので「二人のムハンマド問題」はなくなるわけだから、もうMbSではなく、ムハンマド皇太子と呼ぶようになるのだろうか? これまで「西側では」とか「外交筋では」という前書きがあって「MbS」と「MbN」と呼んでいたのだが、「西側」「外交筋」が呼称を変えるのかどうかも興味があるなぁ。

あッ、UAEに「MbZ」がいる!


編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2017年6月28日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。