禁煙の遠隔治療と医療安全の挙証責任

毎日新聞が「禁煙に「完全遠隔診療」認可へ 面談なし、薬配送」と伝えた。医師法は「自ら診察しないで治療をしてはならない」と定めているが、厚生労働省は長い間これを「対面診療の義務」と解釈してきた。その後、離島やへき地の人などには特例として遠隔診療を認めることにし、さらに2015年の通達で居住地や病気の種類を限定しないと解釈を変更した。ただし、一度は対面で診療するよう定めている。そして、今回、対面診療のない完全遠隔禁煙外来を認めることにしたのである。

情報通信技術の発展で、遠隔でも対面と変わらない診療が可能になり始めたことが、今回の規制緩和を導いた。禁煙については国民の関心も高いから、よい方向での規制緩和である。

一方で、なぜ禁煙外来だけが完全遠隔診療の対象なのかには疑問が残る。記事によれば、必ず一度は対面で診察する原則は患者の安全確保のためだそうだが、それを外すとどの程度安全が損なわれるのだろうか。客観的な指標によって、「一度だけ対面」と「完全遠隔」の安全度の相違が示されるべきだ。

記事後段の「厚労省には、民間企業が営利目的で乱用し、重篤な病気が見逃されることへの警戒感がある。」とは何を意味するのだろうか。

従業員が通院する時間を無駄と見なして健康保険組合を使って完全遠隔医療を乱用し、結果として従業員の重篤な病気が見逃される恐れがある、という意味だろうか。従業員が重篤な病気にかかり休業するほうが企業にとっては痛手と思うのだが、民間企業はそんな短期的な視点しか持っていないと厚生労働省は考えているのだろうか。

そんな意味不明な理由で完全遠隔医療を否定するよりも、厚生労働省は医療安全を客観的な指標を使って説明するべきだ。