6月30日に発表された5月の日本の消費者物価指数は総合で前年同月比プラス0.4%となった。日銀の物価目標となっている生鮮食料品を除く総合(コア)でも前年比プラス0.4%となっていた。ちなみに生鮮食品及びエネルギーを除く総合(コアコア)と、エネルギーまで除いてしまうと前年比プラスゼロ%となっていた。
日銀は原油先物の下落による物価低下圧力を意識するあまり、基調的なインフレ率を捕捉するための指標(速報)として消費者物価指数の「除く生鮮食品・エネルギー(新コアコア)」を独自に算出しているが、原油価格の上昇分が反映されるようなことになると、むしろ原油価格が回復すると、前年比では上昇幅が失われてしまう結果となる。
これをみるまでもなく、日本の消費者物価指数はエネルギー価格に影響を受けやすい。もちろん外為市場の動向の影響も受ける。それらの影響を除いてしまうと結局はゼロ近傍に収斂しやすい性質を持っていると見ざるを得ない。
日銀は1999年にゼロ金利政策、2001年に量的緩和政策、2006年にいったん量的緩和とゼロ金利政策を解除するが、2010年に包括緩和政策、2013年にはこれまでの緩和策は踏み込み不足とばかりに量的・質的緩和、2014年にはその拡大、2016年2月にはマイナス金利政策も加え、9月には長期金利操作も加えて、長短金利操作付き量的・質的緩和政策を打ち出してきた。
その間の消費者物価指数の変遷をみると、途中の上げ下げはあったものの、ほぼコアCPIの前年比はゼロ近傍で推移している。特に2013年の量的・質的緩和導入以降、マネタリーベスや日銀の国債保有額は大きく増え続けているが、それがCPIに影響しているとは考えられない。
物価は上がらなくても雇用環境は改善され、景気も回復基調を続けていることでアベノミクスは成功しているとの意見もある。しかし、アベノミクスの唯一の柱というべき日銀の異次元緩和は物価に影響を与えていない。物価改善ありきでの景気回復ではなかったのか。国民にとっては物価が上がらずに景気や雇用が改善してくれたほうがありがたい。ここには賃金が上がらないという問題も出てこようが、金融政策で賃金がどうにかなるものでもあるまい。
欧米の中央銀行が出口に向かいはじめているなか、日銀は2%の物価目標達成という看板を掲げてしまったことにより、身動きがとれなくなっている。物価目標を達成した際に日銀の財務状態が心配だとの意見もある。しかし、そもそも金融政策で物価は簡単に動かせないことを見事に証明してしまったが、それも認めることは当然できず、とにかく付け加えられるものを付け加えてしまったバベルの塔のような政策を続けて行くしかないということにリスクはあるまいか。日銀の政策リスクは出口にあるのではなく、出口がないことにある。
編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2017年7月2日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。