ジョージ・W・ブッシュ大統領時代の米国務長官だったコリン・パウエル氏が、「使用できない武器をいくら保有していても意味がない」と述べ、大量破壊兵器の核兵器を「もはや価値のない武器」と言い切ったことがあるが、その「もはや価値のない武器」を手に入れるために依然、かなりの国が密かにその製造を目指し、ノウハウを入手するために躍起となっているのが、残念ながら世界の現状ではないだろうか。冷戦終焉直後、核兵器の全廃の時が到来すると考えた人々にとって、落胆せざるを得ない現実だ。
スウェ―デンの「ストックホルム国際平和研究所」(SIPRI)が3日、ホームページで公表したところによると、2016年の世界の核弾頭総数は前年比で460発減、マイナス3%の1万4935発だった。核弾頭を保有する国は、米国、ロシア、英国、フランス、中国、インド、パキスタン、イスラエル、そして北朝鮮の9カ国だ。
1万4935発の核弾頭の93%以上は米国とロシアの両国が保有している。両国は文字通り、核大国だ。米国は今年初めの段階で6800発の核弾頭を有し、そのうち1800発は即実戦に投入できる状況にある。一方、ロシアは7000発の核弾頭を有し、そのうち1950発はいつでも使用できる状況下にあるという。
英国は215発、フランス300発、中国270発、インド最大130発、パキスタン140発、イスラエル80発、北朝鮮は最大20発の核弾頭を有しているとみられている。
SIPRIの研究報告者は、「北朝鮮は核兵器・弾道ミサイルの開発で技術的前進があった」と指摘。インドとパキスタンは核兵器製造の開発能力を高めているという。ちなみに、北朝鮮は4日、大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星14」の発射に「成功した」と発表している。
昨年の核弾頭数が減少したのは米国とロシアが核頭数の削減に関する両国間の締結に基づくもの。その一方、両国は核弾頭の近代化を模索している。米国は2017年から2026年の間で4000億ドルを核兵器の近代化、維持のために投入する予定だ。
ところで、ウィ―ンには核爆発を監視する「包括的核実験禁止条約」(CTBT)の準備委員会暫定技術事務局がある。CTBTが1996年9月に国連総会で採択され、署名開始されて今年で21年目を迎えた。7月現在、署名国183カ国、批准国166カ国だが、条約発効に批准が不可欠な核開発能力保有国44カ国中8カ国が批准を終えていない。米国、中国、イスラエル、イラン、エジプトの5カ国は署名済みだが、未批准。インド、パキスタン、北朝鮮の3国は未署名で未批准だ。
「核なき世界」を訴えたオバマ前米大統領はCTBTを批准し、世界の模範となりたかったが、上院で共和党の反対を受けて批准を完了できずに終わった。その後任、トランプ大統領は目下、核軍縮は緊急課題としていない。米国の出方を伺っている中国はここ数年、「議会で検討中」と言い訳するだけで批准していない。安保理常任理事国2カ国が未批准という現実がCTBT発効を阻止する最大要因となっていることは疑いがない。
朝鮮半島の情勢は緊迫しているが、その主因というべき北朝鮮は、核兵器の破棄を要求する国際社会の圧力にもかかわらず、核開発を継続している。リビアのガダフィ大佐やイラクのフセイン政権が崩壊した主因は核兵器を所有していなかったからとし、核計画を破棄する考えはまったくない。
厳密にいえば、核兵器を保有する他の8カ国も北朝鮮とはあまり変わらない。彼らには核弾頭を率先して破棄し、核フリーを宣言する考えはまったくないからだ。「使えない価値のない兵器」は依然、21世紀に入っても価値ある兵器であり続けているのだ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年7月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。