7月7日に日本の10年国債利回り(長期金利)は0.105%に上昇した。これを受けて日銀は指し値オペを実施し、これ以上の長期金利の上昇を阻止した。なぜ日本の長期金利が上昇し、それをどうして日銀が押さえ込む必要があったのか。
まずは日本の長期金利上昇の背景から見てみたい。
27日にポルトガルで開催された欧州中央銀行(ECB)の年次政策フォーラムで、ECBのドラギ総裁は景気回復に即した緩和策の調整、つまり景気が順調に回復するのであれば、緩和効果を一定に保つための利上げの可能性を指摘した。
FRBが正常化に向けた歩みを進めるなか、英国の中央銀行であるイングランド銀行も利上げに向けた討議を進めるとし、カナダ銀行(中央銀行)も利上げの可能性を指摘するなど、欧米の中央銀行が正常化に向けた動きをみせはじめた。そのなかにあって正常化とは距離があるとみられたECBも緩和バイアス解除を意識させる動きを見せ始めたのである。
6日に公表された6月のECB理事会の議事要旨では、必要に応じて資産買い入れを拡大するとの従来の文言について当局者が削除することを協議していたことが明らかになった。これに伴う市場の混乱を強く警戒し、行動を急がない公算が大きいとも指摘してはいたが、ECBの方向性は追加緩和にはないことがはっきり示された。
欧米の中央銀行が正常化に向けて舵を切りつつあり、これを受けて欧州の国債利回りが上昇し、FRBが利上げを行っても反応の鈍かった米国債利回りも欧州国債の利回り上昇を受けてあらためて上昇しはじめた。
ECB理事会の議事要旨の内容受けて、7月6日のドイツの10年債利回りは0.56%に上昇した。6月22日には0.25%近辺にいたことから、そこから倍以上の利回り上昇となった。フランスの10年債利回り0.91%と6月26日には0.60%近辺にいたがこちらも大きく上昇している。英国の10年債利回りも1.31%と6月20日頃は1%近辺にいたがそこから0.3%程度の上昇となっていた。
この欧州の国債の売りは米国債にも波及し、米10年債利回りは6日に2.36%に上昇した。米10年債利回りも6月26日に2.13%近辺におり、ここから欧州の国債利回りと一緒大きく上昇していた。
この海外での金利上昇を受けて7日の日本の10年債利回りは0.105%に上昇した。これにどう日銀が対処するのかが注目された。
今年2月3日に債券市場では日銀の長期金利コントロールのゼロ%の範囲を探るような動きを見せ、通常の国債買入での増額がなかったことを確認後、10年債利回りは0.150%まで上昇した。これに対し日銀は変則的な時間帯の12時半に(オペタイムは午前は10時10分、午後は通常14時)指し値オペを実施した。その水準が10年債利回りの0.110%となっていた。
7日に10年債利回りは2月3日の指し値オペの水準に接近したことで、日銀は10時10分という通常の時間帯で予定通りに長期と超長期ゾーンのオペをオファーし、その際に5年超10年以下のオファー額をこれまでの4500億円から5000億円に増額した。市場はこの増額はある程度予測していたようである。指し値オペについては見方は可能性は薄いかとの見方が強かった。
ところが日銀は通常のオペと同時に固定利回り方式での残存期間5年超10年以下の国債買入もオファーした。つまり天下の宝刀といえる「指し値オペ」である。その水準は10年利付国債347回の買入利回りで0.110%となった。つまり2月3日と同水準である。日銀としては0.110%が絶対防衛ラインということを示した格好となった。。
7日の10年債利回りで0.110%はつけていたわけではなく、今回は2月3日のように実弾ではなかった(3日の10年債利回り水準は0.140%近辺となっていた)。通常オペで増額した上にストッパーを入れてきた格好である。ただし、利回り水準がそこまで上がっていなかったため、今回は2月3日のように応札する業者はいなかった。今回はまさに来るなら来い的なオペレーションといえた。
これを受けて10年債利回りはいったん0.085%に低下した。しかし市場も慣れてきたのか、昨年11月や今年2月の指し値オペほどのインパクトはなかった。ただし、外為市場ではこれをみて日銀と欧米の中央銀行の金融政策の方向性の違いが意識されて、ドル円は一時114円台をつけていた。
しかし、欧米の中央銀行が緩和バイアス解除に向かうなか、頑なに異次元緩和に固執する日銀の姿のほうが異様にみえる。長期金利をここで止めて、どのようにして物価が上がるというのであろうか。債券市場の機能喪失と引き換えに長期金利コントロール含めた異常な緩和策を進める日銀に対して、疑問を感じる人達も次第に増えつつあるように思われる。
今回日銀が0.110%で指し値オペを入れたのは、2月3日の同水準とすることで長期金利のコントロール範囲の上限は0.110%であることを市場に意識させようとしたものとみられる。むしろここで行動を取らなければ市場は日銀も緩和バイアス解除を意識しているのではと勘ぐってしまうことを恐れた可能性もある。しかし、これはつまり日銀だけが正常化に向けた動きから取り残されることになる。
日銀が物価目標を達成していない以上は当然だ、とのご意見もあるかもしれない。しかし、日銀は異次元緩和で物価そのものを簡単に動かせないことを4年以上掛けて証明してしまった。欧米の物価も目標値に届いていないケースもあれど、2%近くにいることは確かである。ただし、これは欧米の中央銀行の金融政策に負うところというよりも、そもそも欧米の物価は2%近くに収斂しやすく性質がある。それが日本の消費者物価指数では2%ではなくゼロ近傍にある点に大きな違いが存在する。
デフレ脱却云々の前にこういった物価指標の性格も意識しなければならず、少なくとも日銀が長期金利を0.110%に押さえつければ、消費者物価指数が2%に上昇するという理屈はどう成り立つというのであろうか。これにより債券市場の価格発見機能はますます失われ、取引量の減少や既存の市場参加者の退出という形で機能度の低下に繋がっている。海外の長期金利の上昇ばかりでなく、3日の日銀短観などをみても本来、ある程度上昇するのが自然に見える長期金利を無理矢理抑えて、日銀はいったい何をしたいのか。あらためて問いたい。
編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2017年7月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。