パリで開催されたシェアリングエコノミーの祭典、Oui Share Fest にシェアリングエコノミー協会事務局からのパネリストとして登壇して参りました。
パネルのテーマは、「Sharing City – a Bizzare Love Triangle(シェアリングシティにおける奇妙な三角関係)」です。シェアリングエコノミーを積極的に推進する「シェアリングシティ」に関わる3つの主体、すなわち事業者・自治体政府・市民(住民)が、それぞれの目的や利害関係を持ちながら、どのように連携してシェアリングシティを作り上げていくのかということを、ベルギーのゲンク市長やウーバーの交通政策担当者らと一緒に語り合いました。
私からは、日本のシェアリングシティの進行現状と、それにかかわる協会の活動について紹介しました。最終的には、現場での協力関係の作り方や、取得したユーザーデータの自治体への還元に関する政策論など、難しい問題も取り上げながら、あっという間の1時間で非常に盛り上がりました。
パネルが終ってからは、各国関係者から個人的にもいろいろ質問を受けました。特にスウェーデンの自治体当局者からは「僻地の自治体の高齢化と公共サービスをどう供給するかは全く同じ問題意識。日本のシェアリングエコノミー協会の活動をもっと学びたい」と強く要望され、今後の情報交換を約束しました。その他、米国ShareableやオランダShareNLなど、国際的なプロモーションや連携を進めている団体の代表の方々とも個別ミーティングの機会を得て、協力関係をより強固に出来たのではないかと思います。シェアリングエコノミーの国際連携と日本のプレゼンス確立という目的は、それなりに進めることが出来たと思います。
しかしながら今回の出張で実は一番考えさせられたのは、「シェアリングエコノミー」という概念(というか用語)が、世界の市民派コミュニティの中では、現在かなりネガティブに捉えられるようになってしまっている、ということでした。
これは全く私の事前勉強不足だったのですが、このイベントの母体である Oui Share という団体は、すでに昨年の夏、「シェアリングエコノミーは終わった(Sharing Economy is Over)」という文章をウェブサイトで発表していたのです。よってシェアリングエコノミーについて積極的に肯定的に語る人は会場でも少なく、イベントの全体テーマも、「シェアリングエコノミー」ではなくて「自治体をベースとした市民社会の活性化」でした。(私が出たパネルはシェアリングエコノミーがテーマでしたが、それについても ”bizzare=奇妙な”」という形容詞がつけられてしまっています)。
だからと言って盛り上がりが欠けたわけではなく、コミュニティ統治とテクノロジーの関係や、コモンズ型経済の運営と資金確保の問題などの、様々な「シェアリングエコノミーの次」のテーマで、会場が恐ろしいほどの熱気で湧き立っているわけです。
「シェアリングエコノミーの祭典」として始まったはずの Oui Share Fest が、なぜシェアリングエコノミーを正面から語らなくなってしまったか、については、この Oui Share という団体の性格と、「シェアリングエコノミー」の概念に関する社会的コンテクストの理解が必要です。
これについては、一緒に参加したモントリオール市議会議員が語った次の言葉が如実に捉えていると思います。
「シェアリングエコノミーは政治的右派にも左派にも通じる要素を持っている。シリコンバレー系リバタリアンやネオコンなどの右派から見た場合、それは『規制緩和とIT化による遊休資産の最適配分』を意味する。ヨーロッパの環境派・市民派コミュニティなどの左派から見た場合、それは『大企業から市民への生産消費プロセスの主権奪還』を意味する。シェアリングエコノミーが死んだ、というのは、後者の夢が破れて結局は米系大資本による前者の成功のみが後に残った、ということだ」。
そして、この Oui Share の中核メンバーは、決してシリコンバレーの起業家たちなどではなく、まさに後者のコミュニティに属する市民活動家、社会起業家、自治体関係者、学者、ジャーナリスト、学生たちなどであるわけです。(余談ですが、Oui Share のこの方向転換は、当初「シビックテックの祭典」という売り込みだった米国の Personal Democracy Forum が、だんだんシビックテックそのものから離れて市民統治のあり方自体の議論に進んでいった姿にも似ていると思いました)。
シェアリングエコノミーについていろいろな立場があり、こういう議論が行われていること自体はものすごく健全なことで、個人的にはこの Oui Share というムーブメント、応援したいと思いました。
ふり返って問題だと思ったのは、こういったシェアエコに対する深い概念レベルの社会的・政治的議論が、日本では社会全体としてまだ全く行われておらず、メディアでも「ついに民泊解禁、次はライドシェアか?」という表層的な商売のレベルでしか報じられていないことです。それもそのはずで、日本は規制緩和があまりに遅れているために、シェアリングエコノミーが「まだ本格的に来てすらいない」からです。
一方欧米では、シェアリングエコノミーの良きも悪きも一通り味わったうえで、市民社会もシリコンバレーのVCも、総括をしながら次の打ち手に入ろうとしています。この状況の差、やはり日本は少なくとも5年は遅れているな、と思いました。
この状況下において、日本のシェアリングエコノミーを正しい方向に推進させるという、シェアリングエコノミー協会の責任は、並大抵のものではないと思います。今回の出張で、シェアリングエコノミーに関する世界地図の上に、日本をきちんと組込み認知させるという、当面の目的は果たせたと思いますが、より大事な次のステップに向けて、事務局員としてこれからもがんばりたいと思います。
藤井 宏一郎
一般社団法人シェアリングエコノミー協会事務局
科学技術庁・文化庁・文部科学省で、国際政策を中心に従事した後、外資系PR 会社勤務、Google日本法人公共政策部長を経て、マカイラ株式会社代表取締役。テクノロジー産業や非営利セクターを中心とした公共戦略コミュニケーションの専門家として、地域内コミュニケーションから国際関係まで広くカバーする。シェアリングエコノミー協会事務局のメンバーとして、日本国内での推進活動に携わる。