米国で「Let’s Venmo!」との言葉を聞いたことがある方は、ミレニアル層なのでしょう。
Venmoとは、米国で普及しているモバイルP2P送金サービスのこと。送金サービスと言えば、オークション運営会社eベイの下で成長した決済大手ペイパルが思い出されますよね?Venmoは2013年に同社傘下に入り、割り勘機能のほか支払履歴を友人間で評価するソーシャルネットワーク機能が人気を呼び、ミレニアル層(主に1980年〜2000年生まれ)の間で浸透してきました。ミレニアル層の間では、Venmoは動詞と化し、前述の表現や「Venmo me(送金して)」などは当たり前に聞かれるようになるほどです。
(出所:Venmo)
その牙城を崩すべく、米国内で営業する銀行連合34行は6月12日、Zelleを始動させたのです。
Zelleは、バンク・オブ・アメリカ、JPモルガン・チェース、ウェルズ・ファーゴを主体とした銀行が出資し立ち上げた送金ネットワーク“クリアエクスチェンジ”が改名したものです。銀行口座保有者を対象に、加盟する銀行間での送金無料(クレジットカード利用の場合は手数料3%)を実現。送金相手の電話番号かeメールアドレスさえあれば、数分で取引が完了します。Zelleの利用には加盟銀行のアプリか、銀行サイトからZelleのメニューを選択すればいいんですね。入金確認はたったの数分で、Venmoの1〜2営業日とは大違いです。
P2P送金ではペイパルの存在感が際立ちますが、銀行間でも需要は高まっています。Zelleの前身であるクリアエクスチェンジを通じた2017年1〜3月期のP2P送金件数は、前年比39%増の5,100万件でした。送金額は160億ドルと、Venmoの64億ドルの2.5倍に及びます。Zelleに加盟する銀行のモバイル・バンキング利用者数が8,600万人であることも心強い。ジャベリン・ストラテジー・アンド・リサーチによると2016年のP2P送金利用者数は8,400万人でしたが、これを上回る規模なんです。2021年のモバイル・バンキング利用者数は1.29億人と予想され、送金サービスはますます拡大する可能性を秘めています。
銀行がP2P送金サービスに参入した真の狙いとして、実店舗やネットでの買い物のほか各種料金の支払いをスマートフォンで可能にする“おサイフケータイ”領域への進出が挙げられます。送金手数料の代わりに、新たな収入源として決済手数料を確保できるためです。既にZelleを展開するバンク・オブ・アメリカは、保険会社オールステートと提携し保険料金の支払いを受け付けていることが、戦略の表れではないでしょうか。
Venmoも負けていません。手数料収入をにらみ、小売業へ進出中。ネットでの映画チケットや食品デリバリー・サービスの支払い以外に、親会社ペイパルを利用した実店舗への拡大を視野に入れています。iPhoneで知られるアップルはおサイフケータイ機能を持つ“アップル・ペイ”を有するだけでなく、6月5日の開発者会議ではP2P送金サービスへの参入を発表しました。P2P送金サービスでの主導権争いは、米国でおサイフケータイ普及の布石となりえ、今後熱い闘いが繰り広げられるのでしょう。
(カバー写真:Jason Howie/Flickr)
編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2017年7月20日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。