米英が世界の檜舞台から消える時

旧ソ連・東欧共産政権が次々と崩壊していった時、「時代が動いた」ことを目撃し、新しい時代の到来に希望さえ感じた。あれから30年も経過していないが、同じように時代が動いてきたことを漠然と感じだしたが、冷戦時代の終焉の時のように、「新しい時代が来る」といった興奮や希望より、不安と焦燥感が強いのだ。

なぜだろうか。これまで資本主義社会をリードし、世界の秩序構築に加わってきた2大プレイヤーが主役の座から降りようとしていることと密接に関係するのかもしれない。英国と米国の話だ。

▲米国と英国の国旗

▲米国と英国の国旗

英国は一時期、「大英帝国」と呼ばれるほど世界を支配し、第2次世界大戦前後から冷戦時代にかけては、民主社会の騎手として先頭を走ってきた。その英国が昨年、欧州連合(EU)から離脱を決定した。
英国は北大西洋条約機構(NATO)の加盟国だが、欧州の統合から離脱することで、英国民だけではなく、他の欧州諸国にも大きな衝撃を与えた。換言すれば、「英国抜きの欧州の秩序構築」の時代が突然、到来したからだ。

そしてトランプ大統領の米国だ。圧倒的な軍事力、経済力を誇る米国の徹底した“米国ファースト”を表明し、米国益最優先を公約に掲げる大統領の登場だ。超大国の米国が世界の安全、秩序の構築を2次的に扱い、経済的実利を最優先とした政策を前面に打ち出すトランプ氏がホワイトハウスの主人となったのだ。

もちろん、米国も世界のグローバリゼーションの外で生きていくことはできないし、国際協力、連帯を完全には無視できないだろうが、米大統領が“米国ファースト”を掲げたという衝撃はやはり大きい。「あの米国が変わった」という驚きだ。
米国の膨大な軍事力の傘のもとに経済成長に専念できた日本を含む同盟国にも少なからずの動揺が走った。トランプ氏という人間の変わりやすい言動も世界の政情不安を助長していることは言うまでもない。

米国の政界では常に「チェンジ」は好意的に受け取られてきた。トランプ氏の前任者オバマ氏の場合はその典型だった。オバマ氏は「チェンジ」をキャッチフレーズにして大統領ポストを獲得した人物だ。トランプ氏の場合、米国経済の失業者が多いのは中国の不正取引のせいだと主張し、国内の諸問題の原因を外に探し、それらをチェンジしていくと宣言して有権者の支持を集めた。だから、世界はトランプ氏の言動を不安なまなざしで見つめざるを得ないわけだ。トランプ氏が地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」からの離脱を宣言した時、世界の人々は「米国は変わった」ということを確認したのだ。

冷戦時代、国際共産主義世界と戦ってきた米英両国が今、世界のリーダーシップを放棄し、独自の道を歩みだしてきた、それを受け、中国共産党政権が世界の覇権を得ようと腐心する一方、ロシアは昔の大国ソ連の再現を夢見て暗躍してきた。

まとめると、第2次世界大戦後、冷戦時代、ソ連・東欧共産圏の崩壊、そして今、米英2大国の後退に遭遇している。時代は再び動き出したが、世界がどの方向に向かうのか、誰も自信をもって言えないのだ。21世紀の現代人が予感する“不安”は新しい世界秩序の構築前の一時的な現象に過ぎないのか、それとも人類がまだ経験したことがない大きなカオスの到来の前兆だろうか。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年8月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。