北の夜空に輝く星は美しいか

金正恩氏(朝鮮労働党委員長)が「賢明な判断を下した」(トランプ米大統領)ことからひょっとしたら朝鮮半島の軍事衝突は回避される可能性が出てきたというニュースが流れてきた。そうであるならば幸いだが、中国側は「まだ分からない」と慎重な姿勢を崩していない。実際、米韓合同軍事演習が21日から開始されるから、北側の態度が再び強硬になる可能性は排除できないからだ。

▲朝鮮半島の夜間衛星写真(2014年2月公表)=米航空宇宙局(NASA)提供

▲朝鮮半島の夜間衛星写真(2014年2月公表)=米航空宇宙局(NASA)提供

なぜ、金正恩氏がここにきて「米国の出方を暫く見守る」と述べたのか、残念ながらその詳細な背景は不明だが、中国側が原油輸出をストップするという最後の制裁カードを切ったのかもしれない。それとも、金正恩氏自身が米国をこれ以上追い込むとトランプ大統領は本当に戦争に乗り出すと判断したのかもしれない。朝鮮半島の動向を慎重に見守る必要がある。

そこでまったく別の問題について書いてみた。テーマは「北の夜空に星は輝いているか」だ。

ラムズフェルド米国防長官(当時)が2002年、夜間の朝鮮半島の衛星写真を紹介し、「韓国は夜でも明るく、北朝鮮は闇の中に完全に消滅している。その南北のコントラストを見れば、南北のどちらが発展しているかという質問の答えは一目瞭然だ」という趣旨の内容を述べたことがあった(米航空宇宙局が2014年、朝鮮半島の最新の夜間衛星写真を公表したが、南北のコントラストは同様だった)。

朝鮮半島の夜間の衛星写真は明らかだった。韓国は経済成長し、夜も光を灯している。一方、北は暗闇の中に完全に消えていた。経済的発展という観点からいえば、韓国国民は北の国民より数段、幸せだろう。文明が暗闇から光を求めて発展してきた歴史とすれば、韓国国民は光に満ちた環境圏で生きているわけだ。

一方、北朝鮮国民はどうだろうか。故金日成主席が目標として掲げてきた「白いご飯に肉のスープを食べ、瓦の家で絹の服を着て暮らす」生活どころか、飢餓寸前の状況下にある。人間の基本的権利すら保証されない国で生きている国民が幸せなはずがない。朝鮮半島の夜間の衛星写真がそのことを端的に物語っている。北の国民が独裁政権から解放され、南北が再統一され、国民が自由に行き来できる日まで、北の国民の幸せは考えられないだろう。

以上は、以下の内容の前提だ。「北の夜空はどんなに美しいだろうか」。

冷戦時代、ハンガリーのブタペストから夜行電車でルーマニアのブカレストに一人で向かったことがある。列車はがら空きだった。暑かったので列車の窓を開けて外風を入れた。列車はハンガリー大平原を通過中だった。その時、夜空に輝く星が目に入った。これまで見たことがないほど無数の星が輝いていた。
「なんと美しいのか」。その瞬間、当方は感動に包まれた。独裁政権下のチャウシェスク大統領(当時)のルーマニアに取材に行くことに正直いって気が重たかったが、ハンガリー大平原の夜空に輝く無数の星を見た瞬間、そんな思いは吹っ飛んでしまったことを今でも鮮明に思い出す。

そして朝鮮半島の夜の衛星写真を見た時、そのコントラスに驚いたが、その次に、「北の国民は夜空に輝く星を韓国の同胞より良く眺めることが出来るのではないか」という思いが湧いてきた。

夜が暗ければ、それだけ、夜空の星はその輝きを増す。ネオンが溢れる都会では夜、星を探すのが大変だ。韓国は24時間、不夜城だ。ソウルの夜空にはどれだけの星が見えるだろうか。

一方、空腹で行動の自由もない北の国民に夜空を眺める余裕があるだろうか。夜、外で星を見つめていたら、治安関係者に問い詰められるだろう。夜空に浮かぶ無数の星を眺める自由すら北の国民は享受できないのが現状だろう。にもかかわらず、北の夜空には無数の星が眩しいほど輝いているのではないか。

夜行列車の窓から眺めたハンガリー大平原の夜空に輝く星はそれを眺める人間を幸せにすることを知った。多分、北の国民は気がつかないだろうが、無数の星が今も北の国民に生きる力と未来への希望を与えようと輝いているのではないか。そのように信じたい。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年8月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。