『島耕作の事件簿』への疑問 人生100年時代の生き方提案を

『週刊モーニング』で、『島耕作』シリーズの最新作版『島耕作の事件簿』がスタートした。課長編の設定で、怪事件に巻き込まれ追われる身になった島耕作を描いたものだという。原作は樹林伸が担当し、元々の著者である弘兼憲史は作画を担当する。

ファンとしては読まざるを得ないのだが、一抹の不安と違和感があり、まだ読んでいない。そして、『島耕作』シリーズに対する想いはますます複雑になってしまった。

改めて『島耕作』シリーズのパワーはまだまだ健在だと感じた次第だ。番外編やコラボ作品によりファン層を広げようという意図を感じた。小学館の『ドラえもん』、ダイヤモンド社のドラッカーは麻雀のドラを超えるWドラとして出版界に君臨しているが、同様に講談社にとって『島耕作』シリーズはキャラパワーの強い大事なキャラクターであることを再確認した。

一方、ファンとしては、ここは苦言を呈さなければならない部分でもある。ここ数年、ずっと私が感じていることなのだが、弘兼憲史氏も、講談社も、『島耕作』シリーズを安売りしていないか。いや、前述したようにこれらの新しい取り組みはファンサービスでもあり、キャラクターや作品を長生きさせるための施策であるとも捉えることはできる。実際、外伝的に始まったヤングシリーズは楽しむことができた。番外編的な作品も一通り持っている。

しかし、今、必要なのは、『島耕作』の直系シリーズである『会長島耕作』のテコ入れではないだろうか。この会長編では、社長を退任したあとの島耕作が描かれている。会長ならではの業界・企業の中長期戦略、財界活動などを描いている。一時はビジネス雑誌の漫画版のように感じてしまったが、最新刊などはなかなか面白い展開になっている。

ただ、まだまだ中高年の働き方、生き方の提案、問題提起は不十分だ。『定年後』(楠木新 中央公論新社)や『下流老人』(藤田孝典 朝日新聞出版)がベストセラーになるなど、老後の不安は国民の間で根強くある。人生100年時代という言葉もバズワード化している。政府や経済団体もシニアにキャリアに関して真剣に検討する時代である。ここで、一つ強い提案をするのが弘兼憲史と島耕作の仕事ではないか。弘兼憲史のシニア本は売れているようだが。

これは、島耕作への誤解をとき、作品をさらに輝かせるための行為でもある。シリーズ全作品を読んだが、よくある島耕作は女性に助けられてばかりで何もしていないというのは、何も読んでいない人のどうでも良い批判である。大事な意思決定もしてきたし、筋も通してきたではないか。この島耕作と女性というのも、大町久美子と結婚し、高齢化も進んだことから、島耕作の濡れ場は会長編には登場しなくなってきた。ファンの中には濡れ場のない怒りを抱いているものもいるが、今こそ島耕作は女性エピソードだけの作品ではないことを世にアピールするチャンスである。

会長編、学生編のさらなる大ブレークを期待する。島耕作シリーズを心からあいする、耕作員からのエールである。


編集部より:この記事は常見陽平氏のブログ「陽平ドットコム~試みの水平線~」2017年8月23日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。