民進党代表選が1日行われ、前原誠司氏が事前の予想通り、枝野幸男氏との一騎打ちを制して当選を果たした。民主党時代からのおなじみの顔同士との対決だけに鮮度に欠け、世間の関心は薄かった。しかし、前原氏が(あくまで言葉どおりに)公約を実行するなら野党共闘路線の見直しの方向となり、安倍首相の解散戦略への影響は小さくないだけに、政局的には面白くなってくる可能性が増えたといえる。
さる8月上旬のアゴラ夏合宿に前原さんをお招きして、私や池田信夫、受講生らが事細かにいろいろお尋ねし、ご本人も虚心坦懐に本音を交えてお話ししてくれたが、オフレコ前提の会だったのでその時のことは書くつもりはない。ただ、私たちも代表就任を期待していたのでこの場を借りて祝辞代わりのメッセージを述べるならば、前原さんがおそらく理想とする方向性に党を導くには、「非情」のリーダーになれるかどうかだと思う。
「All for All」は本音なのか?
前原さんは党の現状に大変な危機感を持っているはずだ。これまでも公の場で民主党時代から党内で左傾化が目立ってくると、たびたび離党の可能性を口にしたこともあった。当然のことながら、党内左派が跋扈して、近年の野党共闘という名の野合で政権を取る気もない万年野党の共産党との野合を辞さなかったことには、本音では良く思っていなかっただろう。
まさに、そうした左派の多くが今回は野党共闘路線継続を掲げた枝野さんに投票したとみられるわけだが、前原さんは一応就任演説で「All for All」と党内の結束を促したが、それは本音なのだろうか。
ここで代表就任直後のマスコミのストレートニュースで決して触れない重要なことに目を向けたい。
ここは、あくまで「一般論」でいうが、代表に就任したことで、前原さんは枝野さんと天地ほどの差のある力を得ることになった。それは党の代表として人事権を行使し、幹事長らの主要幹部、党運営の重要事項を決める常任幹事会も抑えることで公認権を行使することができる。もちろん同時に党の金庫を抑える。16年の政治資金収支報告によれば、民進党には「軍資金」が約140億円ある。旧民主党が与党時代に議員を多数擁していた時代からの繰り越しも結構残っていたのだ(繰り越しについての道義性の問題点はあるが)。
前原さんは、小池新党が国政化した際の連携には慎重な様子なものの記者会見では否定はしておらず、総じて野党再編への意欲は高いとみられている。
前原氏、野党再編に意欲=枝野氏は自主再建-民進代表選:時事ドットコム
野党再編をM&Aにたとえると…
もし、気の早い一部のマスコミが囃すように、「前原—小池」連合という方向性のシナリオがあるとしよう。アゴラで10月にM&Aのイベントをやることになったが、その組み合わせをまさにM&Aにたとえれば、前原民進党はいわば巨額の内部留保を抱えたまま斜陽業界になっている伝統型大企業、一方、小池新党は時勢を得たビジネスはやっているが資本が絶望的にない新進気鋭のベンチャー企業といえる。
小池新党は、若狭さんや細野さん、長島さんらが5人程度でこの年末に新党を立ち上げたとしても、交付金は1億円程度。選挙対策的には、小池都知事のメディアでのプレゼンスこそ絶大で、東京など首都圏の限られたエリアだけなら無党派層も多くテレビ選挙で圧倒しやすいが、与党が地盤を根付かせている地方で地盤・看板・カバンもない落下傘候補を立てても一定部分しか力を発揮しまい。
自公を相手に東京以外の地域でも候補を擁立し、全体で50 を超える規模の議席を衆院選で狙うなら、とでもではないが資本が不足している。小池新党の国政化で資金力は「弱点」なのは間違いない。
そこで「カネだけはある」前原民進党の動向が、大きな鍵になる。合従連衡するなら、政治もビジネスもカネがある方が主導権は取れる。もちろん、お金でご縁が買えるばかりではないのが人間社会の常で、政治は人間関係などが離合集散の要因となるなど、しばしば不合理なことも起きるが、自民党に対抗できるだけの大型政党を作るなら何十億という資本は不可欠なところだ。前原さんの「CEO」として妥当な投資決断をするのか問われる。
小泉純一郎型の非情のリーダーになれるか?
仮に「前原—小池」連合の方向になった場合、今回の代表選で野党共闘志向だった枝野派の人たちは唯々諾々と従うだろうか。逆説的だが、政治家はいい意味でも悪い意味でも自分のことになるとリアリストは多く、選挙に勝ち残るために共産党との野合も辞さないくらいなので、小池新党と組んだ方が勝てるという算段が働けばその大勢に流れる者も少なくないだろう。それでも抵抗する者がいれば、ここでこそ公認権を行使して公認を外し、党から叩き出してしまえばいい。
前原さんが若干43歳で初めて民主党代表になったときに立ち向かった首相は、まさに小泉純一郎氏。言わずもがな郵政選挙のとき、非情の決断を下しまくって、解散に反対する閣僚を憲政史上初めて罷免。郵政民営化に反対する議員をことごとく公認から外し、それどころか刺客候補者まで送り込み、劇場型選挙を制した。
いまの民進党は、このまま座していても死ぬのは見えているわけだから、失うもののない状況にあって、前原さんが今度こそ優柔不断型から、決断型のリーダーに生まれ変わったのか、見守っていきたい。
ただ、忘れてはならない原理原則はある。小池新党とのタッグも「野合」とならないよう、国民の政策ニーズを潜在、顕在問わず見極められなければ博打をしても手痛い失敗をするだけだ。そして、そのとき、前原さんも民進党も再起は難しくなる。
P.S 朝日新聞は代表選の最中の社説で「野党共闘」路線を提唱するかのような言説をしていて驚かされた。新刊『朝日新聞がなくなる日 – “反権力ごっこ”とフェイクニュース』では、時代遅れの反権力志向があらわになっている現状を手厳しく批評したが、朝日が民進党を甘やかしてきたようにも感じる。そのあたりはまた後日、書いてみたいと思う。