今、サンディエゴにいる。シカゴの家を出てから、片道7時間。アメリカは広いと実感するには十分だ。某バイオベンチャーと共同研究の可能性を探るためだ。しかし、1泊2日で、往復14時間以上は高齢者には厳しいものがある。今日は夕食、明日の朝は、会社で会議だ。若者に任せることができればと考えているが、なかなか、そうもいかないのが実情だ。20年以上に渡る日本での積み重ねと人脈は貴重で、これは簡単には若者には築けない。
夕食の場で、最近FDAに承認されたCAR-T細胞療法の治療費が475,000ドル、日本円で5000万円以上と聞き、目が点ではなく、目玉が飛び出しそうになった。ただし、1か月後の治療効果を見て、有効例だけ保険でカバーされるそうだ。大半の症例では、効いているかどうかの判断が1か月後にはわかるし、有効率が高いので、製薬企業にとっても妥協できる線だと思う。
出来高払いというのは、新しいコンセプトだが、何を持って本当に有効と判断するのか難しいがん治療薬では、よほど有効性に自信がない限り、製薬企業は受け入れられないだろう。特に、がんが一度は小さくはなるが、生きる期間がほとんど変わらないような分子標的治療薬の場合、薬剤の価値をどう判断するのかはより難しい。
もちろん、医療費を効率的に活用するためには、有効性をあらかじめ予測できるような安価な診断法が開発されるのが最も望ましい。何か不足していることを指摘することは容易だ。しかし、本当に必要なことは、問題を解決に導くための建設的な思考だ。そして、これは日本人が最も苦手とすることだ。
CAR-T細胞療法に続き、TCR導入T細胞療法が開発されると(私は意外に早くなると思う)、もっと多くの患者さんに適応されるだろう。一人5000万円X??万人のがん患者の医療費は天文学的だ。2万人でも1兆円。どうする、日本は?
編集部より:この記事は、シカゴ大学医学部内科教授・外科教授、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のシカゴ便り」2017年9月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。