北朝鮮による水爆実験やアメリカ南部を襲ったハリケーン「ハービー」による被害の拡大など、何かと心落ち着かない海外ニュースばかり続いていますが、今月6日付の英国放送協会BBCの記事で英国社会を笑いの渦に包んだ少し朗らかなニュースが報じられていたのでご紹介したいと思います。
この出来事の主人公は、英国西部の港町ブリストルに住む20代のアマチュア体操選手の女性。その女性が初デートの相手の家で起こした行動が後に大きな話題になりました。
Tinderを通じてその女性と知り合ったブリストル大学の大学院生リアム・スミスさんの話によれば、その日、2人は夕食を一緒にした後、ワインを飲みながら映画鑑賞を楽しもうとスミスさんの下宿先に戻ることにしたそうです。ところが、映画を観終えてトイレへと席を外して戻ってきたその女性の表情は焦燥感と羞恥心の混ざったなんとも言えないものだったそうです。
「あなたのトイレを使わせもらったんだけど」と切り出した彼女はこう続けました。「大きい方だったんだけど、流れなかったの。なんでこんなことしたのか自分でも分からないけど、パニック状態になって、便器の中に手を伸ばして出したものをトイレットペーパーに包んで窓から投げ捨てたの」。トイレの外の庭にめがけて投げたはずの「それ」は、二重窓の窓と窓との隙間に引っかかってしまいました。
こんなとんでも話を聞いたスミスさんは驚く素振りをみせるどころか、女性に対して「捨てたものを回収して、捨てて、この話はなかったことにしよう」と落ち着いて提案したそうです。トイレに戻った女性は窓の隙間からもう一度手を伸ばしました。「残念なことに窓に引っかかってしまった『それ』に手が届かなかったんだ」とスミスさんは言います。仕方がないから窓を割るためのハンマーを探しにいったスミスさんがトイレに戻ると、今度は「それ」と同じく窓に身体が引っかかってしまった女性の姿が。「彼女は窓によじ登って上部の隙間から手を伸ばそうとしたんだ。そうしたらそれどころか彼女自体も窓の隙間に引っかかってしまったんだよ」
心配になったスミスさんは消防署に連絡し、その場に駆けつけた消防隊員の手によって女性は無事に救出されましたが、助け出すために壊した窓の修繕費として300英国ポンド(約4万円)を請求されてしまいます。大学院生には痛い突然の出費に困ってしまったスミスさんは、インターネットのクラウドファンディングサイトで修繕費の一部として200ポンドの募金キャンペーンを立ち上げました。そのキャンペーンは大反響を引き起こし、予定額を遥かに超える1200ポンドもの金額を集めることに成功したのです。
スミスさんとその女性は余剰分の募金を均等にふたつに分け、それぞれ消防隊員への支援活動をするチャリティー団体と、途上国で水洗トイレの設置を行っている団体に寄付することにしました。
話題となったその女性の名前は公開されていませんが、スミスさんの友人たちの間では一生の思い出話になることでしょう。スミスさんはその後のインタビューで女性と再会を果たしたことを伝えましたが、「彼女と交際を始めるかどうかはまだ分からない」とあくまでも冷静な様子。「彼女が運命の人かどうか決めるのはまだ早すぎるけれど、早い段階で難しいトラブルを解決できたことは良いことだよ」
初デートの相手の自宅のトイレを使うことはなるべく避けたいというのが一般常識なのかもしれませんが、人間誰しも我慢できないシチュエーションはあると思います。正常に機能しないトイレのある自宅に女性を招くスミスさんの配慮も足りていなかったのかもしれませんが、女性が解決策としてとった行動は誰の目から見てもとんでもないものでした。
とはいえ恥ずかしさのあまりとってしまったこの女性の行動が、世間からの注目を浴び、その結果集まったお金が社会をより良くするために使われることになると考えると、どんなに突拍子もない行動をとってもその後のフォローアップ次第でいい結果を招くことができるといえるのかもしれません。
平 勇輝
ケンブリッジ大学法科大学院犯罪学研究所修士課程