朝日新聞が「反小池」に続き「石破切り」か

新田 哲史

朝日新聞は、どうしてこうも連日ネタを提供してくれるのだろうか。先日、小池都知事との距離が急速に広がり、社説で「反小池」路線に舵を切り始めたことを指摘したばかりだが、今度は加計学園問題での“党内安倍批判コメンテイター”として使い倒してきた感のある石破茂さんを社説で名指しして強烈に批判し始めた。

石破さんは昨年12月、アゴラのイベントでゲストに来てくださり、ポスト安倍を代表する一人として常々注目してきただけに気になるところである。すでに池田信夫がこども版で取り上げたが、朝日新聞は、どうやら、石破さんがこのほど「非核三原則」見直しを言及したことでアンチのスイッチが入ったようにみえる。

(社説)北朝鮮問題、どう向き合う 非核三原則の堅持こそ:朝日新聞デジタル 

核実験をやめない北朝鮮の脅威にどう向き合うか。自民党の石破茂元防衛相が、非核三原則の見直しに言及した。

「米国の核の傘で守ってもらうといいながら、日本国内にそれ(核兵器)は置きません、というのは本当に正しい議論か」

問いに答えるなら「正しい議論だ」と言うほかない。

あー、そうですね。社説の書き出しから石破さんを名指しし、徹頭徹尾こき下ろしている。思えば、両者の“蜜月”がつい先月まで続いていたとは信じがたい。

振り返れば、朝日新聞は、国会が閉じ、加計学園問題の報道がピークアウトした夏場になっても石破さんにスポットライトを当て続けてきた。「民進党代表選を問う」と題した5回連載では、自民党側を代表するコメンテイターとして石破さんを指名して第4回で掲載している(ちなみに第1回は細川元首相、第2回が仙谷元官房長官、第3回が小沢一郎氏、最終回が牧原出・東大教授)。

(民進党代表選を問う:4)解党し現実路線政党に 石破茂・元自民党幹事長:朝日新聞デジタル 

おそらく朝日新聞の社内の空気としてはその時期までは「ポスト安倍」に関して“石破推し”が主流だったに違いない。しかし護憲リベラルの本山である朝日新聞と、政界きっての軍事通の石破氏は、元々水と油のようなもの。「反安倍」という一点のみの利害一致という危うい関係性であることは先月、アゴラで八幡和郎さんが喝破していた。そして今回、案の定、非核三原則の件をきっかけに、石破さんがまさに「見捨てられる」方向になろうとしている。

石破氏は朝日新聞に利用されてすべてを失った

なお、朝日新聞は前述の社説と連動させる形で、同じ朝刊の政治面のほうですかさず岸田政調会長のコメントを掲載。

岸田氏「非核三原則維持して議論を」 石破氏発言にクギ

しかもご丁寧に政治面の真ん中に囲みコラムで目立たせているレイアウトだ(下記、紙面より引用)。

赤枠が岸田氏の石破批判談話コラム(朝日新聞9月8日朝刊より:他の記事は見出し以外は修正)

ソロ活動で主宰しているオンラインサロン「ニュース裏読み」では、作り手の視点を受講者と共有しながら報道の読み解きを議論しているが、こういう紙面の中央部の囲みコラムは、各面のトップ記事ほどではないにせよ、相応に編集サイドとして強調したいニュースをセレクトしていることが窺える。

朝日新聞が岸田氏に脚光を浴びせる意図は何か。やはり自民党派閥で一番親和性のあるリベラルの雄、宏池会のドンに久々に天下を取らせたいのだろうか。

2017年9月8日は、朝日新聞の「ポスト安倍」推しメンの座が石破さんから岸田さんに交代したことを象徴する日付と言えるのではないか。新刊『朝日新聞がなくなる日 – “反権力ごっこ”とフェイクニュース』(ワニブックス)では、「反権力」「反安倍」のためなら節操なく、政敵のコメントを利用する報道姿勢について論評したが、結局、朝日新聞にとって、小池さんに続き、石破さんの“利用価値”がなくなろうとしているように見える紙面構成であった。

なお、自民党支持者の目からみれば、石破さんと朝日新聞との関係が「正常化」していくことは望ましいことではないだろうか、と察している。