電波利用料はオークションの代わりにはならない

池田 信夫

入門 オークション:市場をデザインする経済学産経が噂の段階で書いていた「電波オークション」は、規制改革推進会議の決定には入らなかった。「官民の電波利用状況に関する情報開示の充実、電波利用料体系の再設計など、より有効に電波を利用する者に対し機動的に再配分するためのルールづくり」という表現で電波利用料に重点が置かれているが、これはナンセンスである。

1990年代にアメリカでオークションが始まったのを受けて日本でも検討が始まったが、「時期尚早」という理由で見送られた。その代わりに1993年に電波利用料が創設されたが、これはオークションとは目的が違う。

経済学でよく知られているように、オークションは情報の非対称性のもとで、本当のことをいわせるメカニズムである。たとえば20MHzの帯域について、政府がドコモとKDDIとソフトバンクに「どの会社が電波を有効利用するか」と質問したら、全員が「当社です」と答えるだろう。

書類審査ではいろいろパワーポイントなどを出してきて区別できないが、誰が本当のことを言っているか判別するのは簡単だ:その帯域を競売にかければいいのだ。ドコモが将来(割引現在価値で)800億円もうかると思い、KDDIは900億円、SBは1000億円だとすると、彼らはその価格まで落札価格を競り上げることが合理的だ。

彼らは互いの評価額を知らないので、たとえばSBが990億円を出したとすると、ドコモが1000億円で落札したらSBは電波が使えない。しかしSBが1010億円で落札すると、10億円の損失が出る。したがってすべてのキャリアは、自分の評価額と同じ価格を提示することが唯一のナッシュ均衡になる(くわしい証明は本書を参照)。

したがってこの場合は、1000億円でSBが落札する。つまり本当に電波を有効利用するキャリアに電波を割り当てる資源の効率的配分がオークションの本質的な機能であり、政府に収入が入るのはオマケみたいなものだ。電波利用料はその代わりにはならない。